指使いで劇的に変わるピアノ上達法 :大人編

大人の方が練習する場合、指使いの基本をただ守っていればそれで上達するかといえば、必ずしもそうとはいえないことも多くあります。音楽的背景がさまざまであったり、手の柔軟性など身体的な制限もあるからです。今回の指使いは、そんな大人の方々がより上達するためのものです。



指使いで劇的に変わるピアノ上達法 :大人編





今回のメルマガ執筆者 16年5月



エムジック音楽教室  宇野智子 [千葉県市川市]




 

 前回の『 指使いで劇的に変わるピアノ上達法  :お子さん編 』では、三つの基礎的な指使いを理解し、習得することが、上達には大切だというお話をお届けしました。ですが、大人のピアノに関しては少し違ったアプローチも必要です。


分かっているけど動かない‥‥そのジレンマ分かります

 大人のレッスンは一筋縄ではいきません。ブランクがある方、今までほとんど音楽経験がない方など、小さい生徒さんと比較すると音楽的背景がさまざまだからです。

 

 そのため、前述の三つの運指テクニック(トンネル、黒鍵、和音)についても「そういえば小さい頃に習った気がする‥‥」という方もいらっしゃれば、「このメロディー、指が足らなくて弾けないなぁ(指くぐりをすれば足ります!)」という方も。

 

 また、頭では分かっているけれど指が動いてくれない、なんていうジレンマも大人のレッスンにはつきものです。新しいものや考え方を身につけるのに時間がかかるのです。

 私は、大人の方向けにレッスンをする場合、前述の三つのテクニックを放棄することもあります。毎週決まった時間にレッスンにおいでになれない生徒さんの場合は、自宅でさらってきた指使いを急に変えましょう、と促されても困難なことが多いからです。

人差し指だけを使ったり、手首が高々と上がってしまうような苦しい指使いはさすがに直しますが、それ以外は黒鍵を1の指で弾いても、指くぐりや和音の弾き方がセオリーから少々外れていても、特に直しましょうとは申しません。

 代わりに必ずすることがあります。それは、生徒さんがしている指使いを鉛筆で楽譜に書き込むことです。記載されている指使いと違った運指をしている場合は、薄く斜線を引いて、それぞれの指番号を書き込みます。

 また、ご自宅で読譜をする時も鉛筆で記入することをお勧めしています。練習から練習まで間が空いてしまうと、自己流の指使いを忘れてしまうことがあります。また、繰り返しさらっていても、毎回違った指で弾いていては反復練習になりません。効率よい練習をするためには指使いを定めて、その通りに指を運んでいく必要があります。これは、お子さん編で解説した基礎的な指使いを習得する必要性と同じです。

 ただし、あまり無理のある運指を書かれている時は、レッスンで訂正することもあります。そのさじ加減はお任せしていただくということで‥‥‥。
百聞は一見にしかず、これくらいならOKというグレーゾーンな運指の例をいくつか挙げておきます。

 



トンネルなしの長いパッセージ


 

 


 指くぐりをするタイミングを失い、5本の指を横移動させています。可能であれば運指の変更を試すこともあります。もし難しい場合は、指同士が団子状に固まってしまわないよう、気をつけていただくようにしています。



2と3の指だけでつなぐフレーズ

 

 


 こちらは他の指を使う余裕がなくなり、2本の指に重労働をさせているパターンです。この場合は、手首が上にいって鍵盤自体弾きづらくなることもあるので、もう1本くらい動かす指を足せるとベターです。

1の指(親指)を使えれば良いのですが、親指は構造上、手の形をかなりきれいに丸くしないと鍵盤に乗せられないので、大人になって初めてピアノに触れる方にとっては慣れが必要です。



タコのように動いてしまうカデンツ

 

 

 

 音の粒が揃うように留意していただきますが、この場合は指使いを無理に変更はしません。3つないし4つの音を同時に押さえる和音は、趣味でピアノを愛好する方にとっては特に難しいものです。譜読みに時間がかかり、押さえる音を探すのに時間がかかり、反対の手の音とタイミングを合わせて弾けるようになるまでにも時間がかかります。

そのため、さらに指使いの変更が降って沸いたらパニックになってしまうでしょう。せっかく覚えた音と指ですので、それを活かしつつ、音と音の大きさのバランスがあまり悪くならないように、整えていきます。



大切なのは音楽を快適に奏でること

 無論、音楽的に正しい運指の方が何倍もよいことはいうまでもありません。また、例にあるような指使いをお子さんの生徒さんがしていたら、それこそ直るまで懇々と何度でも繰り返し指導します。

ですが、大人のピアノレッスンはその多くが息抜きであり、生涯学習であり、習う人の数だけ望むかたちがあるものだと思っています。旋律が崩壊しない程度にちょっと規則を曲げるのも、時には許されるのではないでしょうか。

 今現在レッスンを受講されている方へお伝えしたいのは、たかが指使いと思わずに、新しい曲に取り組む時には講師と一緒に指使いを考えてみてはいかがでしょう、というご提案です。

率直に申し上げて、運指を一つ一つ振っていくのは、非常に面倒です。大人になると手の大きさや幅、それぞれの指の長さなど千差万別で、その人に適した運指を書き込むのは骨が折れます。

ですが、面倒だからとそれを生徒さんに丸投げすることは講師の怠慢です。なぜなら、たくさんの曲を弾きこなすために努力してきたピアノ経験者なら誰でも、運指の重要さについて深く理解しているはずだからです。

 余談ですが、発表会用に編曲した楽譜をネットの楽譜サイトで頒布する際、指使いつきと明記したらダウンロード数が微増したということがありました。なので、教室で使用する編曲譜を作成する際は、いつも運指を記載するようにしています(笑)。

楽譜の指使いは、作曲家や校訂者のくせや主観がどうしても入ってしまうものなので、印刷されている指使いだから正しいとは限らないのも、奥が深いところです。海外の楽譜に記載されている指使いは、日本人の手には難しい(届かない)ことが多々あります。

 いかがでしたか?お子さん編と大人編、今回のテーマは一見相反した内容が書かれているという印象をもった方もいらっしゃったと思います。ですが、子どもと大人では知識の量や適応力、反射神経など、さまざまな面に違いがあります。

「一度決めた指使いはむやみに変更しない」という共通のテーマを遵守しつつ、それぞれに合ったレッスン方法を模索していくのが、一人一人のニーズに応え、音楽性を育てていくためには重要だと思っています。




エムジック音楽教室  宇野智子 [千葉県市川市]



 







【教室紹介】


エムジック音楽教室  [千葉県市川市]] のご案内

 初めまして、宇野智子と申します。

 日本大学芸術学部音楽学科に入学し、学生時代は写真学科や映画学科など、クリエイティブな友人と切磋琢磨して勉強いたしました。大学院は博士課程を道半ばで中退。当時はすったもんだがありましたが、挫折の分だけ、音楽の美しさや奥深さ、学ぶことの素晴らしさを改めて知ることができたように思います。

 ピアノを教えるだけでなく、ライターとしても活動、『それぞれに合わせた適切な言葉で適切な指導を』が最近掲げている目標です。

 オンラインレッスンのほか、音大受験に関してのご相談、レポートや小論文の指導も受けつけております。


エムジック音楽教室 宇野智子










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