大人のピアノ初心者で、上達する人はどこが違う? ~見極める4つの視点~

「大人のピアノ初心者で、上達していく人はどこが違うのか?」こんな質問を、今回は多くのピアノ教室の先生方に投げかけてみました。そうは言っても、それは大人ピアノ初心者の方それぞれで個性も性格も違うし、一言で表すのは難しいでしょう。ごもっともですが、そこをあえてお聞きし、インタビュー記事としてまとめました。大人からピアノを始めた、もしくはこれから始めたい初心者の方々に、参考にしていただければと思います。








始める前にわかる!
大人のピアノ初心者で、上達する人はどこが違う
~見極める4つの視点~




 「大人のピアノ初心者で、上達していく人はどこが違うのか?」

こんな質問を、今回は多くのピアノ教室の先生方に投げかけてみました。そうは言っても、それは大人ピアノ初心者の方それぞれで個性も性格も違うし、一言で表すのは難しいでしょう。ごもっともですが、そこをあえてお聞きしました。

考えてみれば、両手を使い、そこそこピアノが弾けると言われるくらいにまでなることは、やはり誰にとっても難しいことです。
大人からピアノを始める初心者の方であればなおさらで、多くの障害や挫折のリスクにさられます。そして実際に、少なからず途中で辞めていきます。そこを上手に乗り越えて上達していくために、何が分岐点になるのかを事前に知っておくことは、賢明なことではないでしょうか。

ピアノ教室の先生方には、潔く、ホンネで、ズバッとその点についてお答えいただきました。それに基いて、上達する方とそうでない方との決定的違い、上達のための押さえるべき重要ポイントについてお伝えしていきます。

もっとも、生徒側の問題だけではないだろう、といったご意見もあるでしょう。大人の初心者の生徒さんに対して、ピアノの先生方がどのような指導環境づくりをし、どのようにフォローしようとしているのかについても着目しています。上達のために、大人初心者の方と先生とは、どのような関係が望ましいのでしょうか。

教室の先生方からは、ホンネで語っていただきました。大人からピアノを始めた、もしくはこれから始めたい初心者の方々に、参考にしていただければと思います。






大人初心者の意志の強さ

多くのピアノの先生方が、最初に挙げたり、前提として考えているのが、大人の初心者側の意志です。夢でもあこがれでも、ピアノの音が好きでもいい。彼らがピアノを弾きたいという意志、気持ちをしっかり持っていることが、いちばん大切だと言います。

当たり前のことだと言われればそうなのですが、やはり人の気持や決心は、揺れやすいものです。しかし、大人からピアノを始め、長い期間続けていくためには、我慢強さも必要です。大人のピアノ初心者の方は、楽しくてワクワクする気持ちの傍らに、しっかりとそのことも気に留めておく必要がありそうです。

また、教室によっては、あまりに意志がブレやすい方は対象にしていないこともあり、同じく留意しておく必要がありそうです。




埼玉県所沢市小手指町 『あんだんて』  御邊先生

御邊先生: 好きこそものの上手なれ、です。いままでに機会がなくて、またどんなに音感がなかったとしても、でも、やってみたかった。そんな気持ちが強い方は、すごく伸びます。
伸びる人は、言われたことだけを、きちんとやってきます。とてもまじめに。できないという現実と、向き合うことができます。そういう方が、すごく伸びます。

女性で70歳からピアノを始めた生徒さんがいらっしゃいます。リズムをうまくとるのが苦手でしたが、論理性があって大人としてしっかりした方でした。言われたことは、次の週にはしっかりクリアしてこられました。つまづいたたり、わからない箇所は、きちんとメモしてもらっていますが、それを、きちんとやってくださいます。私の教室ではリズム打ちから始まって、音名で歌うことや、拍子とり、ピアノで弾くことなどを順番に行って、最後にすべてを同時に行っていただきます。この女性にも、その通りやっていただきました。その過程で、やればできるという自覚を、ご自身がしていきます。それには、ご年配の方は特に長い時間がかかります。でも、できるといったん自覚すると、変わります。自分自身で本当に弾きたい曲をいつでも弾けるようになっていきます。この女性は、そこまでに7年かかりましたが、最終的には、ショパンのノクターンを自由に演奏できるまでになったのです。 -----




広島県広島市西区 『Consolo  音楽教室』 相原先生


相原先生: 本当に上手になりたいかどうかは、その気持ちの持ちようですね。強い人は、伸びると思います。

もちろん、途中で壁にあたる大人の生徒さんもいらっしゃいます。もし壁にあたったら、小さなことで、できることをまずやっていただくようにしています。そうやって、小さな成功体験を積み重ねていただきます。教師は、それを応援する立場だと考えています。楽曲についても、相談をするというスタンスです。教師側があれこれ言うより、大人の生徒さんからまず希望を聞いて、そこから相談にのり、いっしょに達成できるようにします。
みなさん、それぞれの思いがあって教室に来られています。こちらから、どんなふうに上手くなりたい?弾きたい曲は?お孫さんに聞かせたい?といった情報を引き出し、その上で教材も選ぶようにしています。例えば、男性の大人の生徒さんで、教室に来られる前にご自身で音楽理論の本を読んできた方がいらっしゃいました。男性には、理論が好きな方がわりといらっしゃいます。でも、この方は内容がよくわからなかったそうです。それで、日本にはその理論書に沿った良いものがなかったので、アメリカから彼に合いそうなわかりやすい理論書を輸入したのです。

生徒さんの顔色をうかがうわけではけっしてありませんが、やはり、今やっていることが楽しい、と思わないと続きません。大人の生徒さんは、背景もそれぞれです。将来の目標は何なのか、そこに配慮しています。ふだんのレッスンは、週一回のペースが多いですが、自宅ででもこれならできるという課題の与え方をして、モチベーションを維持していただくようにしています。それが、先生の役目ですし、続けていただくためには大切なことだと考えています。  -----






素直であるかどうか


多くのピアノ教室の講師の方々に、ピアノ上達の秘訣のお話をうかがう中で、とてもよく耳にしたのが、「素直かどうか」でした。

大人でピアノ初心者の方は、以下の先生方のご意見を参考に、自己チェックをしていただくとよいかもしれません。




東京都杉並区 『あゆ音楽教室』  前原先生


前原先生: こういう練習をしてください、と指示をすると、与えられた課題を、素直に、余計なことを考えずにやってくださる方がいます。そうすると、こちらが思い描くとおりに進んでいきますので、こちらとしては次の課題が与えやすくなります。弾きにくいところの練習はたいへんだけど、ちょっと楽しもうという人は、伸びます。難しい時は、一度に両手で弾かない。フレーズや泊で小さく区切って、片手の部分練習をしていただきます。レッスンでそれを行い、後は家でやってくださいと。そういったことをきちんとやっていただければ、確実に伸びます。  -----




広島県広島市中区 『ぽこあぽこピアノいろは塾』  前田先生

前田先生: やはり、素直な心ですね。子供は、体で、本能で考えます。大人の方は、どうしても頭だけで考えてしまうようです。もちろん理屈で理解する時も必要ですが、すべてにおいてそれを持ち出すとうまくいきません。自分だけの凝り固まった常識は、むしろ弊害になります。

伸びる大人の方は、最初からとても素直です。正確にはできてないんですけど、こちらの言うことを聞いてくれているのがわかるのです。表面的にとりつくろって、わかる、わかる、ではないんです。心から素直に、ということですね。
最初は頑なだった方も、先生に対する尊敬の気持ちが生まれてこれば、どこかで心を開いてくださると思います。
だんだん打ち解けてこられるのがわかります。 -----



埼玉県さいたま市北区 『MUSICA音楽教室』  浦山先生

浦山先生: 子供と同じで、素直な方ですね。ただ、一つだけ、大人の方と子供さんとでは違うことがあります。人生経験の長さです。大人の方は、自分で自分の限界を決めているようなところがあります。経験があるからこそでしょうか。

子供さんなら、素直ですから、やったことがないことでも、できる!と思って本当にやってしまいます。部分練習なら、子供さんなら二、三回でできるようになります。でも、大人の方は、やらないうちから、「こんなに難しいのはできない」、或いはできても「いや、難しいですね・・・、うーん、ちょっと家で一人じゃ無理です。できません。」とおっしゃって、練習をしなかったりします。ご自身で、できないとバリアを貼ってしまわれます。そういった方は、お仕事が忙しくなると、練習をしなくなります。学習のペースも落ち、やがてモチベーションもなくなっていきます。

他にも、心に原因がある例はあります。ある大人の方で、半年でミスターチルドレンをりっぱに弾いた方がいらっしゃいました。発表会では、5歳の子よりも、上手だったのです。終わってから、私がよかったですよ!と褒めました。しかも、こんなに短期ですごいと。すると『いや~、納得できないです。子供のほうが、上手だったように思います。』とおっしゃるのです。その時は、妙に謙遜されている様子ではなく、ほんとうにできないと思われているように感じました。本当はもっとこういうふうに弾きたいという理想が高いのかもしれません。教室でレッスンを始める時に、理想が高い方は意外に多いです。
ちなみに、子供さんには、理想の曲というのは、最初からありません。大人のピアノ初心者の方は、メディアの影響もあって、弾きたい曲で理想を高く持っていらっしゃるようです。そのことは頭では理解していても、もう少し上手くなりたいと思って、焦っているように見えます。

似たよう例ですが、大人の方は、先生に模範演奏を求めることが多いです。それで求められて演奏します。すると、それによって、やる気がでる方と落ち込む方がいらっしゃいます。もちろん、やる気がある方が、伸びます。
その時、落ち込む方に対しては、『私は、20年以上、ずっと弾き続けています。○○さんもきちんとやれば、いずれはできるようになりますよ』とお伝えします。それだけ時間をかければ、○○さんにもできますよ、とお話するのです。

素直に、どこまでがんばるかについては、大人も子供もいっしょです。その点では、どちらも同じスタートラインに立てると思います。 -----





上達する人は、他にどこが違うのか

上達する大人のピアノ初心者の方は、意志と素直さ以外にも、様々違う点があるようです。



埼玉県狭山市 『クレッセント音楽教室』  牧野先生

牧野先生: まずイメージする力だと思います。この曲をこういうふうに弾きたい、ここはこういう音を出したい。そういうイメージを持てるかどうかが、とても大切だと思っています。それはピアニストや他人のモノマネではなく、音や全体に対する自分自身のイメージです。例えば、あるフレーズをどのように弾きたいかについて、明確にそれを持てるかどうか。指導者は、それを尊重し、実現できるよう導くのが役目です。もちろん、そのために必要なテクニックはその都度提案します。私は生徒さんと一緒にそういう音楽を創っていくレッスンを、基礎から合わせてしています。

それから次に、聴く力、特に響きを聴く力です。弾いた瞬間だけでなくその後の音に注意を向けるよう促します。実は、弾いた後に空間をただよっている響きをきちんと聴いている人は、とても少ないのです。「聴くこと」ができるようになると、右手と左手のバランスが整ってきたり、次に弾く音を大切に出すようになります。実際に大人の生徒さんはこの「聴くこと」で、よりイメージに近い音が出せるようになり、どんどん伸びていきます。  -----




K先生


K先生: マネができる人です。そして、できなくても、やろうとする人。1を聞いて10を知った気になる方がいますが、これはだめです。指示した箇所、一部分だけでも、そこはしっかりやってくるような方ですね。自分で色をつけるような方も、うまくいきません。中には、CDのマネをしてくるような方もいますが、上辺だけの中身のない演奏になってしまいます。これは、大人のケースではありませんが、とても勉強熱心な子どもさんがいて、自分でDVDなどを見て学んでくるのです。しかし、曲はチューリップなのですが、手と体が必要以上に上がったり、動いたりで、基本からかなら逸脱してしまっています。こういったことは、今まで指導した大人の初心者の方にもありました。

ある曲を弾くために必要なテクニックというものがあり、そのための練習があります。そういった土台をすっ飛ばしてしまうと、やはり上達は望めません。指示したところを着実にやっていただきたい、というのが私の指導方針です。  -----



埼玉県東松山市 『わたなべピアノ&ソルフェージュ教室』  渡部先生

渡部先生: 上手になる方は、「忙しい」とは言いません。言い訳をしないのです。

ある30代の女性の方も、そうでした。その方は、仲間同士でいっしょに習いに来られました。最初はその方と仲間の方々を合わせて4人でグループレッスンをしていました。しかし、その方1人だけが上手になっていき、そのグループから別れ、個人指導になっていきました。今では、ショパンコンクールにまで参加するようになっています。他の方々が上手くいかなかったのは、「今回は、忙しかった」といった言い訳よくされていました。本当にやってくる方というのは、たとえ出張で忙しかったとしても、けっして言い訳をするようなことはしません。

仮に課題のすべてをこなすことができなかった方でも、一部分だけはきちんとやってくる方がいます。こういう方も、伸びます。こういう方には、こちらから次の対策を提案できますからね。

それから、上達する方はイベントに出席する回数が多いのが特徴です。通常の発表会だけでなく、大人向けの発表会にも出席されます。グレードテストにも大人向けのものがありますが、そういったテストにチャレンジします。どんどん参加する方は、仲間の輪も広がりますし、伸びますね。  -----




東京都港区南麻布 『AMITY  ピアノレッスン』 三原先生

三原先生: 3つあると思っています。1つには、バンド経験など音楽経験がある人。以前にピアノはやってないんですが、音感もよく、音符も読める。どんどん進んでいきますね。

次に、若い頃から憧れ続けてきた方。中年を過ぎた方だと、手の動きはなかなか思うようにいきませんが、ピアノを弾く時間はきちんと取ります。そして、最終的には弾きたい曲を弾くようになっていきます。もちろん、楽譜はやさしくアレンジしますし、達成感を味わっていただくようにしています。

3つめは、自分の生活の中で、ピアノの優先順位が高い方。シルバーの方は案外趣味が多いのです。カラオケなどもそうですね。ただ、そういうものがあんまり多過ぎると、上手にはなっていきません。OLさんでも、忙しいけどピアノはきちんと弾いているという方は、安定して練習をしてきてくれます。  -----



大阪府大阪市北区梅田 『田中 裕士 “Academia de Musica Moderna”』 田中先生

田中先生: 私のスタジオではポピュラー・ジャズを指導していますが、一言で言えば、耳が良い人です。一般的には練習熱心な人が伸びる、励む人が伸びると言われますが、そうとも言えないところがあります。それももちろん大事ですが、やはり耳の良さです。耳が良いことにプラスして練習時間が多い人は、それはもうスーパーな人です。

耳の良さというのは、何種類もあります。この音はラの音といった音の高低を感じ取る音感も、そのうちの1つです。ここで言っている耳の良さというのは、良い音楽を良いと感じ取る能力です。その意味では、ふだんからどんな音楽を聞いているかがとても大切です。また、耳が良いと練習のポイントがわかるため、ムダな練習をしなくて済みます。料理で言えば、もし本当においしいものを味覚が知っていれば、自分でもその気になれば作ることはできますよね。またなぜその味になるのかといった味のポイントがわかります。そういったことと似ています。

耳の良さと関係しているのが、センスです。何をもって美しいと感じるのか、つまり美意識といったものです。美意識があれば、良い音をキャッチできます。また、志も高くなりますね。ふだんから名盤やセンスあふれる音楽を聴くことで、この感覚が養われるのだと考えています。服装で言えば、ファッションセンスにあたります。それがあるかないかで、かっこいいか、あるいはダサいかが決まってしまう。

このセンスは、たしかに生まれ持ったものです。また、身につけるのが早ければ早いほど有利なのは間違いありません。しかし、大人の初心者の方でも、その後の訓練で克服することができます。良いセンスに磨き、育てることができるのです。それが、講師の役割だと思っています。  -----



埼玉県川口市 『ピアノ教室DOLCE』  福田先生

福田先生: 弾けたという達成感、喜びを感じることができる人だと思います。でも、それをしっかり味わってもらうために気をつけていただきたいことがあります。また、そのために、こちらも心配りをしています。

まったくの初心者の方には、なんのために教室に来られたのか、あるいは弾きたい曲は何かについてお聞きします。それをしっかりお持ちの方のほうが、こちらとしてもやりやすいのです。そして、すぐに弾くことはできないと、ご説明します。ご自身に自分は才能がないとかってに思い込まれてはいけませんので、ピアノは難しいことをわかっていただきます。ただし、きちんとした練習方法で行えば、上達します。

聴いてすぐに弾けると思う方は、長く続きません。ポピュラー音楽をソロで演奏するのは、本来難しいと思います。バンドであれば、リズムや伴奏、メロディーを別々の奏者が演奏しますが、ピアノならば1人でそれらを同時に行わなければなりません。ポピュラーなら簡単にできそうだといった勘違いを、正してもらっています。教室へ習いに来るのは、最短距離で上手になることだと考えていますが、それでも2,3年かかります。

こういったことを、まず最初にお話します。そして、いっしょに、がんばりましょう、とお伝えします。 -----




静岡県富士市 『仁藤ピアノ教室』  仁藤先生

仁藤先生: 一言で言えば、 楽しく続けられる人=上手になる人、だと思っています。楽しめる人の性質をさらに詳しく言うなら、4つほどあります。

1)素直で謙虚、卑屈にならない人。
社会的に高い立場の大人の生徒さんもいらっしゃいますが、その中でも素直な方が良いですね。どうせ私なんて、が口癖の方は、なかなか難しいです。

2)探究心、好奇心が旺盛な人。
「なるほど」を連発するような方がいらっしゃいますが、知ることによって喜び感じられる人だと思います。それがいいですね。
大人の生徒さんが弾いているある曲を、私自身が音の豊かさや大小など変化をつけて聴いていただきます。わざと下手バージョン、上手バージョンにしたりもします。例えば、左手の音を大きくすると右の音とのバランスが悪くなりますが、そうやって強調してあげます。違いをわかっていただきたいのですが、それに敏感に反応しておもしろさを感じていただける方は違いますね。弾きたい曲のレベルに合わせて、私はそれに関係する知識をタイミング良く与えますが、それがピンと響く方ような方です。

3)音楽、ピアノが好きな人。
好きな曲、弾いてみたい曲がある方ですが、最近多いのが、動画を見てあこがれたという方です。「千本桜」といったネットで話題になった曲、ジブリの編曲などを聴いて、かっこいいと感動したことがきっかけになっています。

こういう方には、小さいステップを踏んでいただきながら、大きな目標へ導きます。ピアノ習得までには、5年、10とは言いますが、いきなり遠大な目標では続きません。あこがれの曲と似たような小さい曲を用意したりして、まずは小さい目標を決めていくとスムースです。

4)自主的に考えて、わがままに言いたいことが言える人。

私は、これがいちばん大事だと思っています。しかし、先生によっては、こういった大人の生徒さんをなすがままにすることを危険と考えている方もいます。たしかに、授業が成り立たなくなる可能性がありますからね・・・。

ほとんどの教室は、生徒さんの意見も参考にはしますが、先生主導で進めるのがふつうです。大人の生徒さんが、これを弾きたいというと、先生の顔色が変わります!そういった生徒さんは、相手にされないといった現状があると思います。

しかし、私はこういった大人の生徒さんの場合、レッスン内容も自分で決めていいと考えています。彼らに、自分の意見を言ってもいいんですよと言っていますが  なかなか言ってくれません。何か言うと、ヘタなクセにと言われるのを怖がっているように感じます。


レッスンの時は、毎回やるべきメニューを決めています。ただ、すべてをこなせない時も、当然あります。そんな時は、「きょうは練習していないので、この曲だけでもいいですか」と生徒さん自ら言ってくれるようになるほうが良いですね。そうじゃないと、なかなか続かない。もしそれができれば、ご自身で考えて練習するようになっていきます。大人の方は、本当は嫌だと言いたいことがあっても我慢します。それが、積もり積もると楽しくなくなるんじゃないかなという気がします。自分の中にたまっているものがあれば、思い切って先生に言ってみるのも1つです。我慢はしないほうが良いと思います。  -----





できない初心者が、こうして上達していった

大人のピアノ初心者で、最初は上達とはほど遠いと思われていた方が、その後上達していった事例について、紹介します。




愛知県名古屋市千種区 『むらまつ音楽教室』  村松先生

村松先生: 子どもさんで、なんとなく始める場合もあります。お母さんが行けといったから、といった感じです。でも、発表会に出て、あのお兄ちゃんが弾いた曲を、あるいは、あの子が弾いたアニメの曲を、私も弾いてみたい、といったように刺激を受けて急に変わることもあります。

これは、大人ついても言えます。ご年配で、初心者の男性の方でした。習いはじめの頃は熱が入らなかったのですが、何かの会で、ピアノが弾けるなら「きよしこの夜」を弾いてと言われたそうです。そして、実際に弾いた後、「すごいね、あなたそんなことができるのね!」と、褒められたそうです。それが、とてもうれしかったようでした。本当に弾けるかなと、最初は不安げでしたが、がんばって練習をし、見事に弾けるようになりました。一度そういった経験をされると、次からは、自ら積極的にピアノに取り組もうとされます。最近は、その方はスケーターズワルツや、アメージング・グレースにいっしょうけんめい取り組んでいらっしゃいますよ。年齢の割に弾けていると思います。この方は、ピアノはまったくの初めてでした。現在は始められて約5年になりますが、弾きやすいアレンジで弾かれています。イベントをきっかけにして、やる気のでる目標を持てたことが、とても良かったと思います。  -----




広島県広島市中区 『ぽこあぽこピアノいろは塾』  前田先生

前田先生: 初心者から始められた60代の女性の方で、 飛躍された方がいらっしゃいます。カルチャーセンターのピアノ講座から始まり、次に別のピアノ教室へ、そしてその後、こちらの教室へ移って来られた方でした。カルチャーセンターでは、グループレッスンでした。その後は、個人レッスンです。私の教室へ来られる前に、約3年ほど勉強されていますが、ほぼ初心者の状態で、まともに弾ける状態ではありませんでした。俗に言う天然キャラで、客観的に見ると弾けてはいません。しかし、ご自身は弾けていると思っていて、満足されているのです。「下を見ずに弾いてくださいね」と、いつも私が注意を促しましたが、その重要さになかなか気づいていただけませんでした。

しかし、この方がこちらへ来られてから約5年を経て、下を見ないで弾かないほうが良い、ということにようやく気づき、納得されました。そこからは、私もそのことを褒めますし、ご本人さんもよりピアノが楽しくなったようでした。とにかくご自身で気づいていただくまでがたいへんで、教える側に忍耐が必要でした。下を見て弾いている限り、ピアノはけっして上達しません。そのことがわかっているだけに、こちらとしてもそこを見逃すことはできませんでした。その方は、今ではご自身で楽譜に指使いの番号を書いてくるほどまでになったのです。

大人の生徒さんに対しても、子供さんと同じように指導してもらえる先生が良いと思います。というのは、先生同士では、「大人の生徒さんには、ほどほどで良い」といった話が、まことしやかにささやかれているのです。しかし、私はそれではだめだと考えています。一見すると見込み薄と思われる方でも、きちんと受け入れるべきだと考えています。そのため、生徒さんの受け入れに対して、私は間口は広く取っています。そして、実際の指導の際に、こういうふうにすれば、少し良くなるでしょ?と気づきを促すようなヒント与えながら、指導します。そうすると、当初あらゆる面で劣等生だった方でも、その微妙な違いを感じ取る感性があれば、少しずつ良くなっていきます。しかしその時に、上達しない方は、余計なことは言わないで、という残念ながら反対の反応をされたりしますね。

参考までに、教室で実際に使用している教材についてです。大人の方のほとんどは、ヤマハが出版している「大人のためのピアノ悠々塾」の入門~初級まで、クラシックがお好きな方はバスティンの「クラシック  メロディ」プリマーから4までを使っています。あとは音楽之友社の「ブラインドタッチで弾ける おとなのための 楽しいピアノスタディ」を使用したりもしています。大人の方は、曲と練習曲と言うように分けてはおりません。上のテキストを2冊購入、例えば、「悠々塾」と「クラシックメロディ」といったように、それぞれで一曲ずつ練習していただくようにするか、一冊で何曲か見てくる、という形をとったり、人それぞれです。ハノンやチェルニーなどを持ってこられる方も稀にいらっしゃいますが、今までそのような方は全員途中で腱鞘炎になって辞められています。ですから、よほど弾ける方でないと、それらの教材を持ってこられても私はお薦めしていません。  -----





上達するためのアドバイス

実力と実績のあるピアノ教室の先生方から、大人のピアノ初心者の方が上達するためのアドバイスをいただきました。




東京都杉並区 『あゆ音楽教室』  前原先生

前原先生: 子供の頃にもどって、ひらがなを覚えるようにピアノを習ってみてください。そして、何でも先生に聞いてほしいと思います。先生の前では、恥ずかしがらずに子供でよいのです。受け入れてもらえると思って、先生に接してみる。そう接することで、先生もきっと返してくれますよ。  -----





埼玉県さいたま市北区 『MUSICA音楽教室』  浦山先生

浦山先生: あきらめずに、続けることだと思います。続ければ誰でも上手になります。そのためには、最初にあまり力みすぎないことです。細々とでも、3~5年、できれば10年続けていくスタンスが大切です。

教材は、その大人の生徒さんに希望を聞いています。まずは、好きな曲を一曲決めていただきます。嫌でなければ、楽譜を読めるようになる教材、例えばバーナム(ミニブック)なども併用してもらい、初見の練習などもしていただきます。

欲があって、今からでも上手になってショパンを弾きたい大人の方には、バーナムも使いますが、簡単な曲で知っている曲にトライしていただきます。教材は、「趣味で楽しむピアノレッスン」(ヤマハ音楽メディア)などを使います。これは徐々に難しくなり、知識もついていくように構成されています。クラシック曲だけでなく、ポピュラー曲も混じっていますので、楽しめる内容にもなっています。生徒さんが最初に希望する曲は、やはり難しいことが多いので最初は思うように弾けません。だから進みが遅くなります。でも、こういう大人のために考えられた曲集は、やってこられる方も多く、はかどりますね。

私の教室では、始めてから一年後、発表会で「Mr.Children」の曲や、ブルグミュラーの曲をを弾いた方もいらっしゃいます。二極化しているのですが、伸びる方は、どんどん伸びます。でも、途中で気持ちが折れて、あきらめる方は、残念ながら続けることなく去っていかれます。  -----




埼玉県上尾市 『田中克己ピアノ音楽教室』  田中先生

田中先生: 私の教室には、アマチュアコンクールで優勝経験がある方や、ピアノ講師をされている方など、レベルがとても高い方がいらっしゃいます。そういう方々と日々接していて感じますが、伸びる方は、その方自身が良い意味でどんどん変化していかれます。いつもそれを実感している方が、伸びると思います。

例えば、ほんのささいな指使いの変更にも、大きな変化を読み取れることがあります。ある一つの音を、人差し指から中指に変えてみることをこちらが勧めるとします。その瞬間、急に弾きやすくなることがあります。生徒さんが、あっと気づくわけです。そういう方であれば、もうご自身で他の箇所への応用仕方もわかるようになっているのです。

こんなことをおっしゃる生徒さんもいらっしゃいますが、変化に敏感な方だと思います。「いつも先生のおっしゃっていた手首の使い方、鍵盤と指は密着してるほうが良いというお話ですが、その本当の意味が、最近ようやくわかってきました。昔の弾いた曲を、その方法で、再度弾いてみたいです。  -----





良き指導環境に身を置く

どのような環境に身を置くかは、人が成長するために、とても重要なことです。それは、大人のピアノ初心者の方にとっても同じです。

ここでは、育てることがとても上手なピアノ教室の先生方が、どのように大人の生徒さんをフォローしているのかご紹介します。




東京都立川市 『音楽教室Brillante』  岡室先生

岡室先生: 4歳から80歳までの30名以上の生徒さんと、毎日楽しくレッスンしております。

40代(始めて10年未満)の女性で、最初はまったく弾けない方でしたが、どうしても別れの曲を弾きたくて、発表会では根性で弾かれました。80歳(始めて30年)の女性で、ショパンのワルツが弾ける方もいらっしゃいます。ご年配の方が発表会に参加していると、他の若い大人の生徒さんには、自分もがんばらなくちゃと、励みになるようです。

また、40歳の男性の方もいらっしゃいます。(始めて15年くらい) 今は、ショパンのノクターンを弾いていらっしゃいます。ベートーヴェンだと、月光を弾くことができます。ふだんは、私と音楽のことも含めてよくおしゃべりをします。でも、ふだんはスポーツマンでもあり、発表会前にはとてもがんばる方です。この男性の場合、ふだん知らない世界を知りたい、といった好奇心からピアノ教室の門をたたいたようです。ですので、私としては予備知識など、音楽に関連する知識を与えることを心がけています。例えば、子どもさんだと、作曲家の伝記の漫画を読んでもらったりします。この男性生徒さんの場合、最近話題になったのはキリスト教のことでした。話の発端は「聖お兄さん」という、東京都立川市が舞台の漫画です。これは、映画化もされています。イエスとブッダが、立川のアパートに暮らしている設定なのですが、教室も同じ立川市なので、その時も話題になったのです。その話から派生して、クラシック音楽は、教会のグレゴリー聖歌、マタイ受難曲といった歌、合唱から始まっていること、そして、バロック音楽、古典派、ロマン派などへ発展していったこと、あるいはチェンバロ、パイプオルガンも、教会で元々使われていたことなどをお話しました。

私は、大人の生徒さんに対して、続ける環境を用意してあげることが重要だと考えています。良い環境をつくるという意味で、先生の役割がとても大切です。こちらから提案もしますが、生徒さんの要望をきちんと聞くようにしています。

私自身も、現在師事している先生がおり、忙しいときちんと練習していくことができない時があります。ですから、生徒さんの気持ちもわかるのです。もし今週はあまり練習できなかったという生徒さんがレッスンにいらっしゃれば、いいですよ、ここで練習していってくださいね、と申し上げます。続けていただくためには、無理をさせないことがポイントです。続けていれば、どんな曲でも、だいたい弾けるようになるものですから。  -----




埼玉県狭山市 『クレッセント音楽教室』  牧野先生

牧野先生: 大人の初心者の方や今まで独学をされていた方は、様々な固定概念を持っていることがよくあります。しかし、その固定概念を無くすことで、例えばレパートリーがぐんと増えることがあります。そのため、考え方が固まってしまわないよう、指導者も気をつける必要があります。以前、バッハのプレリュード(平均律 第1巻 第1番)をハ長調だから弾きやすいといって持ってきた初心者の方がいらっしゃいました。実際はハ長調の和音だけで成り立っているわけではなく途中で調性が変わっていることを説明し理解していただきましたが、その時はとてもびっくりされていました。

また「基礎はやりたくない」という初心者の方も多いです。大人の場合は趣味の方が多いので、それでも良いのですが、同じ曲でも弾き方の違いによって、音色にずいぶん違いがでることを、まず私が弾き比べます。その後、ご自身でも実際に弾いて違いを確かめていただきますと、弾き方によって、今よりもっと綺麗に弾けることを実感されます。その結果、大抵は生徒さんのほうから、「基礎からやります!」とおっしゃってくださいます。

どなたでも、大人の場合、自分の意志で教室に来られます。「弾いてみたい。上手になりたい」と思っています。ですから、「好き」は前提にありますね。そして、誰しも伸びしろがあります。それを引き出すのが指導者の役目です。たとえ不器用であっても、その人なりに伸びしろがあります。大人の生徒さんは、制約や様々な事情から長時間練習できない方が多いため、私は10分程度の短い時間でも効率良くできる練習方法もお伝えしています。

指導者の伝える力は、とても重要だと考えています。その際には、まずしっかり生徒さんを観察します。そして、どうやって伸ばしていくのか、その場でその生徒さんに合わせて、臨機応変に対応ができる事が大切なのではないかと思います。  -----




埼玉県上尾市 『田中克己ピアノ音楽教室』  田中先生

田中先生 : 少し前から、私自身がレッスンによる学びを復活しました。また同時に、自分自身のソロリサイタルを再開しようと決意しました。

私の元には、ピアノをより専門的に学びたい講師の方や、ソロでピアノリサイタルを開きたい方が多くいらっしゃいます。そういった生徒さんを抱えるようになって、改めて考えてみたのです。ソロ・ピアノ・リサイタルであれば、90分の間、孤独と緊張状態に打ち勝つ強靭なメンタルが必要になります。しかし、そういった感覚をどこかに置き去りにし、生徒さんへのレッスンでは何か過去の話を伝えている自分に危機感を持ったからです。

現在の私の師匠は、70代の方ですが、まだ現役のピアニストとしてご活躍されています。テクニックはもちろん、メンタル面でも優れたご教示をいただき、たいへん尊敬できる方です。そのレッスンは、長年のご経験が詰まっており、中身が非常に濃いのですが、そのため一回のレッスンはおよそ4時間にも及びます。ここで受けた教えは、私自身が教える際のとても貴重な材料となります。

その甲斐あってか、サポートの仕方が生々しい、現場の人に習っている感がある、と私の生徒さんたちから言われるようになりました。私自身がこのようにしたら、こんなふうに弾けるようになったと、実際にその場で見せます。そうやって私の師匠がされるのと同じように示すと、とてもわかりやすいと言ってくれます。例えば、親指のちょっとしたクセの直し方などですが、身をもって得たものをダイレクトに伝えると、すごく喜んでくれるのです。なぜ、そのような弾き方になるのかなど、理由については実践を交えながらしっかりお伝えします。先生自身が弾いたこともない曲を、さも弾けるかのごとく教えるようなことは、けっしてしてはいけないと私は考えています。  -----




広島県広島市西区 『Consolo  音楽教室』 相原先生

相原先生: 当教室では、ピアノ・レッスンにボディーワークを取り入れています。身体のバランスを整え、正しい身体の使い方を習得していただくためのものです。

大人の方ですと、ピアノを弾く時に不必要に力が入っている場合が多くあります。座り方や腕の動かし方を適切に指導することにより、ピアノを弾く時に無理な力が入らず、楽になります。

例えば、まむし指などの不自然な形も、指先に体や腕の力を乗せていく感覚がわからないことによって、そうなります。ピアノは、耳や目、動作など複雑な作業を瞬時に行うマルチタスクであり、難しいものです。そのため、そういった不自然な指の動きを改善する場合、脳の働きから、まず意識していただきます。そして最初は指だけを1,2,3,4というかんじで動かすことに専念し、次は音をというかんじで、一つ一つ進めていきます。複雑な動きを、いきなり反射的に正しい動きにすることはできません。一つ一つ要素に分けて行っているのは、そのためです。大人の初心者の方は、理論的な理解が早いので、それができる方は納得してワークに取り組んでいただいています。  -----



静岡県富士市 『仁藤ピアノ教室』  仁藤先生


仁藤先生 : 教える側が上達するように仕向けることが、いちばん大事ではないかと思います。大人の生徒さんに素直であれと言うなら、教える側も謙虚でなくてはなりません。「ここはダメ。できてないのわかる?」と、連発しているようでは、講師のほうがダメですね。そうではなくて「ここは、もっとこうしたほうが良いと思う」と言うべきです。ダメ出しを続けていると、特に大人の方のほうが心折れやすくなります。

そうかといって、先生が最初から上達させようという意欲を持たず、大人の生徒さんに対して何も言わないのも、これはまた良くありません。大人の生徒さんなんてどうせこの程度だから、といった不遜な態度は、教師として恥ずべきだと思います。このような意味で、先生側の責任は大きいと思うのです。逆に、習う側の生徒さんの責任はそれほど大きくはないと考えるほどです。  -----

 


大阪府大阪市北区梅田 『田中 裕士 “Academia de Musica Moderna”』 田中先生

田中先生: 上達を考える場合、メンタルとフィジカルは分けて考える必要があると思います。フィジカルは、手の動きなどのテクニックの面を言います。メンタルは、聴こえ方や感性、気持ちの持ち方などを総称した意味で使っています。

フィジカルは、訓練で良くなります。時間が答えを出すのです。ところが、メンタルはそうではない。メンタルと言っても、私は誰よりも音楽を愛してる、だけではダメで、それについてしっかり教えてくれる先生が必要です。フィジカルとメンタルの両面が機能して初めて、音楽が形になるのです。もう少し言うと、メンタルがしっかり作られた上で、フィジカルが伴っているのが理想です。

この関係は、実際のお金を使った生活で考えてみてください。いくらお金をたくさん持っている方でも、それにまかせて散財しているような人は、ちょっと下品に見えますよね。逆に、限られたお金だけど、賢く上手に使い、そして十分楽しめる人もいます。こちらのほうが、人間として何か品があるように感じられます。

これを音楽との関係で言えば、お金=技術、お金の使い方(賢さ、品格)=メンタル、になります。音楽家で言えば、お金(技術)はたくさん持っているが、上手な使い方(メンタル)を知っているのが理想的です。要は、その使い方なのです。

ですから、私のジャズ・ポピュラーピアノのスタジオでは、音楽における品格を大切にしており「技術は一人前に、メンタルは三人前に」と、わかりやすくお伝えしています。技術は、人並みでも十分です。しかし、感性は、三倍持とうよと。そこを磨き、またその道程を楽しめる人が、本当の音楽家だと考えています。山登りと同じで、頂上になかなかたどり着けません。だから、道のりを楽しむのです。今できないことを卑下するような方は、やはり途中で辞めていかれます。なかなか答えがでないことを、楽しんでいただきたいと思っています。

こういった音楽の本質に関わる両面について、指導する講師の立場で考えると、教え方が上手、下手が分かれてきます。私は、小学校の先生が子どもたちに教えるように、わかりやすく教えなければならないと考えています。
特にメンタル面というのは、大人の生徒さんご自身もはっきり意識できないことが多い。そこを、なんとか講師が変革してあげなければなりません。

例えば、もしプライドが高い生徒さんがいて、勘違いをされている場合、過去のすばらしい名盤やアルバムの演奏をたくさん聴いていただきます。オスカー・ピーターソンやビル・エバンス、ハービーハンコックといったジャズの歴史に残るピアニストの演奏です。

「きみは、すばらしいとは思わないかい?」と、講師から投げかけをします。その時に、「私、勘違いしていました」と気づく方が、7割くらいです。無知が招く誤解を、このように解きほぐしていきます。これは、言ってみれば聴き方の指導です。どこがおいしいのか、その味わい方、楽しみ方、あるいは礼儀作法、流儀といったものついて伝えていきます。そこで無知に気づいた生徒さんは、伸びます。伸びない方は、自分自身が無知であることがわかりません。先生のおかけで、見えないものが良くみえるようになった。そのように生徒さんから言ってもらえるようにするのが、先生の役目だと思います。  -----




東京都港区南麻布 『AMITY  ピアノレッスン』 三原先生

三原先生: 大人の生徒さんの弾きたいという思いを維持するのに、気を遣っています。いろいろお話をする中で、その方の好きなジャンルを探っていきます。教則本はほどほどにして、憧れていた曲を中心に進めていきます。曲の中で難しい箇所があれば、クリアするために別途トレーニングのための教材が必要になるとお伝えして対応します。

使用する教材ですが、大人の方に今さらバイエルはないだろうと思います。コード進行に着目しながらできている教材が良いと思っています。曲の中で部分練習をしたい場合などに、「バーナム」という教材を使っています。  譜面が読みやすく、大人の方に適していると思います。

レッスンでは、大人の生徒さん自らが、やっぱり自分には両手は難しいと言って、しょぼんとする方もいらっしゃいます。でも、自信が持てないと大人の方はだめだと思います。そんな時は、なんとしてでも今の曲を弾ける状態にしてあげようと考えます。手書きの譜面を、その方に合わせて作ってあげます。エリーゼのためがちょっと難しくて弾けないのなら、簡単バージョンにし、なんちゃって「エリーゼのために」にしてしまいます。楽譜のタイトルは「エリーゼのためにより」とか。(笑)後は、マンネリズムに陥らないように気をつけてもいます。一曲ばかりやっているとか、同じ作曲かばかりやっていても飽きてくるので、いけないと思います。生徒さんが飽きないよう、バリエーションや選曲を考えていきます。

ただ、もっと基本的なところでピアノ演奏が上手くいかない方も、たしかにいらっしゃいます。今まで他の教室のレッスンで、その先生に楽譜を読んでもらっていたような大人の生徒さんもいらっしゃいました。でも、楽譜を自分で読めて、自分だけでも弾けるようになったほうが良いと思います。それで初めて、自立できると思うのです。子供さんだと、暗記して弾いてしまうような子です。気持ちよく弾いてはいますが、楽譜を読んでる感じがしません。なかなか上達しない生徒さんには、手元を見ながら弾いている場合が多いのです。そんな時は、「手を見すぎよ!」と楽譜を見るよう促してあげます。そうやって少しずつ、自立に向かっていきます。音を覚えて、目線は手元でという方だと、やはりあまり伸びていきません。

その他に、ピアノ演奏が上手くいかない方には、ハーモニー感が乏しい傾向があります。シニアの方は特に、ハーモニー感がない方が多いと思います。その場合、片方ずつ、つまりメロディーとハーモニーを分けて練習していただきます。そして、私のほうがハーモニーだけを弾きます。それを生徒さんの耳に入れてもらいます。そういった方法が、片方ずつのサポートが向いてない人には必要だと思いますし、有効です。それでも、なかなかコツを飲み込んでいただけないのですが、続けていると、ふっとわかる瞬間があります。

いずれ教室を去ることになり、お別れすることになった時に、どの程度までの演奏能力を身に着けていただくか、と予め教師の側が考えておくことが重要だと思います。教室を去った後、「自分で楽譜を見て、弾いています」という頼りをいただけると、本当にうれしくなります。  -----



埼玉県川口市 『ピアノ教室DOLCE』  福田先生

福田先生: 続けることと上達することは、必ずしも一致しないと思います。大人の生徒さんは、続けることはできると思います。でも、上達するかどうかは、先生のスキルによると思います。

私には、辞めない生徒さんをつくろうという意志は、ぜんぜんありません。長続きさせようというつもりも、基本的にはありません。それよりも、先生としてどういう姿勢で教えているのか、教えることに情熱を傾けている先生であるのか、それがすべてです。生徒さん自身が弾きたい曲を、目の前で弾いてくれる先生がいる。私がそのように弾いて示すと、いつか私のようになりたいと、あこがれを持っていただけます。

私にとっては、レッスン室がホームグランドです。少しくらい体調が悪くても、そこへ入れば元気になる。先生がピアノを弾くのが好きって、いちばん大事ではないでしょうか。こんなに楽しいのよ、というのを伝えたい。そして、がんばるとこういうことができるのよ、と威張る。(笑)  先生が弾くことができるのを、上手に見せて伝えることは、生徒さんの気持ちを盛り上げる上でとても大事だと思います。

そうは言っても、大人の生徒さんのニーズも忘れてはいけないと思います。ピアノの雰囲気に浸っているだけで満足されたり、シニアの方に対しては、指導の仕方をまったく変えます。そういった方々に対して、どうにかして引っ張っていこうとするのは、良くないと聞いています。その方のペースを、そっと見守ってあげるようにしています。先生の持ってるスキルと生徒さんのニーズが合っていてこそ、いちばん良い教室だと言えます。コンクールを優勝させるような先生がもっとも優れているかというと、必ずしもそうではないと思っています。

大人の初心者の方の教材ですが、読譜の理解力がどの程度あるかなどによって、決めていきます。「大人のためのピアノ悠々塾」を、よく使います。理解力のある方には、連弾曲集を使います。「シニアピアノ教本」(橋本晃一)「おとなのためのピアノ曲集」(橋本晃一)などです。また「大人のハートフル・ピアノ・デュオ」(大村典子)も、とても伴奏がきれいで、発表会で重宝する優れた曲集です。通常は、そういった連弾曲といっしょにソロの曲を合わせて、二曲をレッスンで行います。「ハノン」練習曲も使いますが、いつの間にか消えちゃうことが多いですね。

当教室の発表会では、大人の初心者の方には、連弾で参加していただきます。その経験をしばらくした後に、若い生徒さんは、弾きたい曲やポピュラーのちょっとかっこいい曲に挑戦したりします。クラシックをやさしくアレンジした曲は、大人のプライドが許さないようです。クラシックのやさしいバージョンは、そのため発表会では使いません。大人の生徒さんは、十分な練習時間を確保することができません。発表会などのイベントでは、間に合わないと困るので、逆算して曲を決めていきます。日々のレッスンでは、その時のレッスンの録音、録画していただきます。私との連弾の場合は、先生パートの伴奏のところも、録音していただきます。

発表会では、ホールで弾いたときの音がどれほど美しいかを体験していただきます。どなたが弾いても、3倍上手に聴こえますよ。発表会に参加するかしないかで、その後の成長がぜんぜん変わってきます。最終目標は、人前での演奏です。1回の本番は、10回のレッスンに匹敵すると思います。生徒さんが失敗しないように、緊張対策もしっかりします。本番で頭が真っ白になっても弾けるように、とても気を遣っています。私自身が緊張しやすいので、自分の経験からお伝えしています。

発表会を含めたイベントのときは、参加するようお声かけをします。40代以降の大人の生徒さんには、暗譜はしなくてもよいことにしています。そして参加者のみなさんが、暖かい気持ちで本番までフォローし合います。そうすると、全員参加になります。他の教室では、大人の方は発表会に参加するのを嫌がるようですね・・・。私は、最初に大恥かいてくださいね、とお伝えしています。発表会に至るまでには、参加者同士で引き合い会をします。その時に間違いをチェックするため、録音をしていただきます。それを三、四回行うと、ほぼ失敗しなくなります。上手くいかなかった時には、誰しも自分に蓋をするものです。でも、そこをつぶしていくようにしています。そうやってプレ発表会のような訓練をしておくと、本番では自信を持って弾けるようになり、とんでもない失敗にはなりません。逆に、予想以上に弾けたりもします。

発表会の本番では、実際はみなさん緊張しています。しかし、いまお話したような過程を経たせいか、生徒さんには、その中でもどこか余裕感が見られます。本番では緊張して、上がってしまう。まずは、これを認めてあげます。覚悟してくださいね、と。そうしないと、本番は怖くて舞台に立てないと思います。そういう意味では、最初の心構えが大切です。ただし、若い大人の生徒さんは、自分が曲を弾けていることで十分幸せと感じていたり、同じ仲間同士語らうのが好きです。だから、無理はさせません。高齢者の方は、もちろん言うまでもありません。

大人のピアノ初心者の中には、プロの演奏を聴き過ぎていて、目標がプロの演奏になっている方がいらっしゃいます。そうなると、自分自身に対しては、いつも悪い評価になります。自分の演奏を、きちんと認めてあげるのも大切ではないでしょうか。良い点も悪い点も、両方認めてあげるのです。そのことを身をもって学べるのが、ピアノ発表会などのイベントだと思っています。  -----





大人の生徒の意志 × 先生の手ほどき (相乗効果)

今回の取材から、改めて上達における大人の生徒さんと先生の基本的な関係について整理しました。

グラフでは、生徒の意志を縦軸にとり、先生の手ほどきを横軸にとっています。

ピアノ上達のためにもっとも望ましく、効果的なのは、AからD面の4つのうち、B面の位置です。さらにいちばん大きな黒丸の位置が、最も理想的です。中くらいの黒丸であれば、先生の手ほどきにそれほど期待を必要としません。反対に最も小さな黒丸で生徒の意志が強くない場合、先生の手ほどきをより多く必要とします。

大人の生徒の方で、ご自身の気持ちに少し不安がある方は、先生の手ほどきが上手で、かつ手厚い教室を選択するのがベターだということがわかります。



上達における意志と手ほどきの関係図






大人ピアノ初心者が上達するための4つのポイント

ピアノを上達させたい。そう願う大人のピアノ初心者の方にとって、本当に大切なことは何なのか。現役ピアノ講師の先生方から、それについてアドバイスとヒントをいただきましたが、それらを以下の4つのポイントにまとめました。教室選びや実際のレッスンに、ぜひお役立てください。


大人ピアノ初心者が上達するための4つのポイント

・意志の強さ、素直さ
・先生とのコミュニケーションが円滑か
・教室の環境(大人の生徒さん指導の実績、先生のフォロー体制)
・先生との相性 (フィーリング、直感で、その先生と合うかどうか)




東京都港区南麻布 『AMITY  ピアノレッスン』 三原先生

三原先生: レッスンでは、けっして無理をせず、先生とのコミュニケーションを楽しんでほしいなと思います。大人の生徒さんは、けっこう緊張感を持ってレッスンに望まれる方もいらっしゃいます。そうではなくて、先生を友達にして、いっしょにやっていきましょう。その気持を持っていることが、とても大切だと思います。大人の生徒さんは、一人ひとり人生の背景が違っています。習う前に、それぞれの音楽の世界をお持ちです。それを否定するのではなく、いっしょにさらに広げて、人生をより良くしていきましょう。レッスン中のおしゃべりも、大切です。その方の生活や人生が、より明るく、楽しくなるためには。

当教室には、80歳のおじいちゃんもいらしてます。ほとんどしゃべって帰られます。あちこち病院に通っている話など、いろいろです。私はお月謝はいただけませんと言うのですが、どうしても払うとおっしゃいます。当然、上達はしませんが、ペギー葉山の大ヒット曲「南国土佐を後にして」を、なつかしそうにいつも弾かれています。  -----




静岡県富士市 『仁藤ピアノ教室』  仁藤先生

仁藤先生: 自分に合う先生を見つけられるかどうか、これが上達にとても関わっていると思います。何かこの先生とは合いそうだといったフィーリングを、教室を訪ねた際には大事にしてほしいと思います。

私の思う「フィーリング」について、もう少しお話させてください。

・第一印象(自分にとって感じがよいか)
・先生が話を聞いてくれるか、どれだけ気持ちに寄り添ってくれるか?
・できれば自分の目標となる曲など弾いてもらい、自分の好みの演奏か?


この3つの評価で、合う合わないがわかると思います。

そして、合う合わないの感度を高めるために生徒さんができることは、

・自分の目標(どんな曲をいつまでにどう弾けるようになりたいか、はっきりでなくとも考えられる範囲で)を決める。
・自分がどんな人かをしっかり見つめる。(好きなこと、嫌いなこと、苦手なこと、得意なことなど)大人は我慢している人がほとんどなので、本当の自分の気持ちに
気づいてないことが多い。


この2つを先生に伝えて、受け止めてくれる先生でしたら、きっと満足できるピアノレッスンになると思います。

合う先生を見つけられると、たんなるピアノレッスンだけではなく、本当の自分の気持ちと向き合うことになります。そして、ありのままの自分で良いのだと気づくこともできて、自分らしく楽しい人生になるはず、と私は信じています。実際、最初にお会いした時より、生き生きしてくる生徒さんもいます。

私の教室に来てくださっている生徒さんたちで、私と合う方々は、最初は遠慮がちで自信なさそうなのです。でも、「この先生なら何をいっても大丈夫」と信頼してくださると、意見を言ってくれるようになります。

そして、自分のためのレッスンという自覚を持ち始めてくると、弾く曲を選ぶことはもちろん、曲を合格にして終わりにするかどうかも、相談して決めたりするようになります。体調や練習時間によって、レッスン内容も生徒さん主導で決める事もあります。もちろんすべて生徒さんの言いなりになるわけでなく、上達のために譲れないところはしっかり説明して納得してもらいますが。自分で考えて練習した結果、できることが増えていくので、自信もついて、何より楽しそうです。

私の教室には、入会されてから10年ほどになる60代の女性がいらっしゃいます。全くピアノ経験のない初心者からのスタートで、最初に通ったところのレッスンが合わずこちらに来られました。理数系の頭の切れる方、真面目そうで、好奇心旺盛、気さくな感じでした。ピアノが上手に弾けるようになりたいという気持ちを強くお持ちでした。前のピアノの先生の不満な点は、正しい音が弾けたら何の注意もされず合格になってしまう。うまくなっていると思えない。弾き方も良いのかどうかわからない。先生がお手本を弾いてくれるがあまり良いと思えない、など。けっこう色々とお話ししてくださったので、こちらも助かりました。体験レッスンでのレッスン内容が気に入っていただけたこと、性格が合いそうと思っていただけたことで、入会されました。その時使用していた本は「大人のためのピアノ悠々塾初級編」「大人のためのテクニックマスター2」でした。そのままそれを使用しつつ、しっかり基礎から学びたいとのことでしたので、「リズムとソルフェージュ1」「譜読みワーク」を加えました。

その後は、「ブルグミュラー25の練習曲」をはじめ、「スケールとアルペジオのテクニック」など、それから色々なタイプの小曲が入っている本が好みのようで「様々な感情A」「グルリット24の調による練習曲」などを使用しました。現在は「ピアノコスモス2」「リズム練習とソルフェージュ2」を基本に、時々初見で連弾をします。

それと好きな曲を平行して弾いています。クラシックだったり、ドラマで好きな曲だったりと、ジャンルは様々です。理解力はあるのですが、指の動きはそんなに器用なほうでなく、リズムとりが苦手でしたので、すべてが完璧に弾けているわけではありません。上達はゆっくりかもしれませんが、順調に上達しています。発表会もほぼ毎年出演してくださっています。

私とのレッスンを始めたころ、たくさんの注意をすると「それが知りたかったんです!」とよくおっしゃっていました。私がお手本で弾くと、「先生のように弾きたいからがんばる」とも。ご自宅での練習で感じる違和感や疑問点を、レッスンのときに解決して納得できることが、満足につながっているようです。今まで練習が嫌だと思ったことがない、どれだけやっても興味が尽きることなく楽しい!ピアノの弾き方だけでなく、音楽の表現の仕方を習っている感じがとてもうれしい。年を取って、杖をついてでもレッスンに来たい、とおっしゃってくれます。私も、彼女との雑談は楽しいので、きっと気が合うのだと思います。  -----




編集: ピアノ教室.net 編集部





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