知っていそうで意外と知らない、マル秘ピアノ・テク (全3回) 09年11月
~これがAKI流!クラシックピアノへのアプローチだ!~
執筆者: 『ピアノ教室 21』主催 竹内 [東京都台東区]
第1回: staccato(スタッカート)とは違う、marcato(マルカート)とleggiero(レッジェーロ)の本当の弾き方、知ってる?
~動画で弾き分け方のコツをマスター~
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■今回の特集記事執筆者
『ピアノ教室
21』 [東京都台東区]
こんにちは。
『ピアノ教室21』のAKI先生こと、竹内です。
今回からシリーズ3回にわたって、わたくしAKI先生が担当する、『マル秘ピアノ・テク』。
知っていそうだけど、意外と知らないテクニック。そんなピアノ・テクニックの盲点となるようなポイントにしぼってお伝えしようとおもいます。
これらは、うっかりしていると見落としそうな、ほんの小さなポイントです。「この内容、知らなかった。これを知らずして、不覚にもいままで何十年もピアノを引き続けていたなんて…」
それ、じゅうぶんアリな話ですよ。
でも、これらマル秘ピアノ・テクニックを知ることによって、あなたのピアノ表現は、今とは明らかに違ってくるはずです。料理でいうと、特性調味料、隠し味のような隠れたエッセンスと、新鮮でおいしい食材の使用になるわけで、あなどれません。自家製のちょっとした魚料理や肉料理が、あっという間に本格フレンチに生まれ変わってしまう?!
ピアノを始めてまだ1,2年の初心者の方には、ちょっと難しいと感じるかもしれませんが、将来はもちろん、今の演奏にも必ず違いをもたらすでしょう。
ひょっとするとあなたは、ピアノの中級、いや上級者かもしれませんね。しかし、テクニシャンのあなたも、もしかするとここでお話することは、意外と知らないかもしれません。
上級者の方も、あなどらず、確認の意味でチェックしていただければ幸いです。
それにこの特集では、動画もつかってテクニックを具体的にお見せしようとおもいます。文章だけで伝えるより、数十倍わかりやすく、まさに『百聞は一見にしかず』です。
これを見た後、もうわからないなんて、けっしていわせませんよ!
AKI先生の口ぐせ、「もっと効率的に。そして、もっとピアノをたのしみましょう!」とともに、それでは、さっそく第1回をはじめたいとおもいます。
◆第1回: staccato(スタッカート)とは違う、marcato(マルカート)とleggiero(レッジェーロ)の本当の弾き方、知ってる?
~動画で弾き分け方のコツをマスター~
「staccato(スタッカート)は、知っていますか?」
そう問われれば、おそらくあなたは「もちろん、Yes!」と答えるでしょう。
では、それとmarcato(マルカート)、あるいはleggiero(レッジェーロ)との違い、はっきりわかる?
ちょっと悩んでいるあなたを想像していますが、いかがでしょうか。
これから動画をつかって、その三つの違い、特にレッジェーロについてはっきりと理解していただきます。
レッジェーロをマスターすることで、将来、モーツァルト、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ、協奏曲を演奏することがあったときに、大いに役立ちます。それらは、巨匠といわれるようなピアニストたちもレパートリーに入れるほど、重要なレパートリーなんです。
レッジェーロは、音質(色あい、ニュアンス)にかかわるものです。書籍や教則本を読んだところで習得できるものではなく、必ず自分の耳で「その音」を習得する必要があります。
AKI先生の模範演奏動画で、その「微妙な」音質(色)にハッとして気づく。そうなれば、音楽大学、大学院など音楽専門学校に行かずともその技術が習得できちゃうわけで、これって、スッゲーお得かも!
さて、これらの三つの違い、課題曲をつかってさっそくお話しましょう。
課題曲:L'arabesque(アラベスク) by F. Burgmuller(ブルグミュラー/1806-1874)
クラシックの初歩で誰もが習ったことがある、あの有名な『アラベスク』です。
それでは、最初の部分を一緒に見てみましょう!
【画像1】
まず、左手の各和音の上についている記号に注目。
この記号、一見するとstaccato(スタッカート)のような「タッタッタッ、、、」と跳ねるように弾くものだとおもってしまう。でも、よ~く見ると…
通常のstaccatoの「点」ではなくて、「縦方向の短い点線」になってますね?
これ、どういう意味でしょう。これは、本日の練習課題の1つである、marcato(マルカート)という弾き方です。
marcatoをあえて言葉で表現するなら、「スタッカートにアクセントを付けたもので、(音を)短く強調して弾く」といったかんじでしょうか。
ちょっとわかりにくいので、以下で実際に音で聴いてみましょう。 ↓
(※最初はstaccatoで2小節弾いています。その次にmarcatoで2小節弾いています)
いかがでしょう。響きの違い、わかりましたか?
じゃ、実際どうやって弾くのか。
staccatoを弾いている時とmarcatoを弾いている時、それぞれの「手首」の使い方(動き)に注目してみて下さい。
staccatoは手首より先の「手のひらから指先」までを使って弾いているのに対してmarcatoは肘から先の「上腕から手首」までを同時に使って弾いている。そのことに気づきましたか?
ようするに、marcatoの弾き方はこうです。自然に上腕が下がってまた跳ね返るようなイメージで、上腕から手首までを上下させ、意識的に「強い音」を出して弾く。いわば、それは振り子のような「はずみ」を利用した動きです。
では、そのときにあなたに意識してほしいことです。
ドアのつなぎ目などに使われている「ちょうつがい」を思い浮かべてみましょう。
【画像2】
あなたの肘が、ちょうどこの「ちょうつがい」の中央、つまり支点にあたる部分だと想像してみて下さい。
それをイメージしながら、次の動作です。
上腕自体の重さを利用しつつ、勢いをつけて上腕を鍵盤に落としていきましょう。そして、指先が鍵盤にあたったら、その反発力で上腕が上にもどってくる。
どうでしょう。 staccatoとは違う音が出たでしょ?
ここで注意して頂きたいのは(各)音を分離するということ。
前述のようにmarcatoは「スタッカートにアクセントをつけたもので、(音を)短く強調して弾く」でしたよね?一度音がでたら、すぐさま上腕を上方向に「はずませる」ということです。
そして、はずませる時も上記の「ちょうつがい」の要領で、肘を支点に上腕を跳ね上げることを意識して下さい。
以上がmarcatoを弾くヒントです。
そして、ここからが重要!「練習」はまず、ゆっくりと上記をよ~く意識しながら左手、右手と片方ずつおこないます。
さいごに両手で練習してみて下さい。そのとき、実際に出ている音が、ほんとうに出そうとおもっている音かどうか、神経を集中して聴いて下さい!
もし、このことが意識できない、つまり何気なく弾いているしまってるなら、それは、残念ながらコツをつかめていないことになります。
※ちょっと余談です。上記の「音を意識する」についてですが、これをしっかり意識させる役目が、隣にいらっしゃる先生なのです。つまり、先生は、管理/進行役であって、適度な緊張感をつくりつつ、生徒自身が弾いている音を、本人に意識させてくれます。生徒が自分1人でピアノを弾いているときには、自分の音を聴いているようで、実際は聴いていないことが多いもの。「独学には限界がある」といわれるのは、こういった理由からなのです。
さて、それではもう一度 『L'arabesque(アラベスク)』に戻りましょう。
始めの部分で、今度は右手の16分音符に注目。
その下に『leggiero (レッジェーロ)』とあります。
【画像3】
この『leggiero (レッジェーロ)』。
あえて言葉で表現するならば、「legato(レガート)とstaccatoの中間のような音」といえるでしょう。ようするに、滑らかでもなく、分離して短くでもない音。そういうことになります。
これも、以下で実際に音で聴いてみましょう。↓
※A-minor(イ短調)のスケールを3オクターヴに渡って弾いています。最初はstaccatoで、2回目はlegato、そして3回目をleggieroで弾いています。※ペダルは一切使っておりません。
「聴いた感じ」ではちょうど「legato(レガート)とstaccatoの中間のような音」に聞こえますよね。
雰囲気で言うなら「軽快に、軽く、走り抜けるようにetc」とも表現できそうです。
じゃぁ、どうやって弾くの?ですが、AKI先生の指の動きに注目!
staccato、legato、leggieroでの指の使い方を以下に列記します。
1.staccatoは指の第1関節(指の先端から3番目の関節)を支点に鍵盤を「ヒッカク」感じで弾いています。
2.legatoは次の音を押すまで前の鍵盤は「押されたまま」で弾かれています。
3.leggieroは、それまでstaccato、legatoが指の関節を使って弾いていたのに対して、手首を使って弾きます。
3.leggieroについてですが、先ず、手首を鍵盤から(離して)宙に浮かせた感じをイメージして、先ほどのように「ちょうつがい」のイメージで、手首から鍵盤を押す力が出ていると意識して下さい。そのまま手首を「平行」に移動させながら鍵盤を押していくのですが、手首が「宙に浮いている感じ」の為に鍵盤は最後(これ以上押せないという所)まで押されないとイメージして下さい。1つの鍵盤が半分まで押された所で次の鍵盤に移(押され)るというイメージです。
※上記はあくまで弾いている時の(あなたの)意識の仕方やイメージのヒントです。言葉で伝えるには、限界があります。最終的に聴こえる「音(質)」を頼りに練習することが音楽の基本だということは、忘れないで下さいね。
さて、marcato(マルカート)とleggiero(レッジェーロ)についていかがでしたか?
何気なく弾いていた曲が、弾き方(タッチ)を使い分けることよって違う響きをつくり出すことがおわかりいただけたと思います。こうした積み重ねによって、曲全体としてもまるで違うニュアンス(曲調)を生み出すことができます。
以下、AKI先生による模範演奏です。
・Burgmuller(ブルグミュラー)Op.100 no.2 "L'arabesque(アラベスク)"
以上で、第1回目の「知っていそうで意外と知らない、マル秘ピアノ・テク」は、終わりになります。
長い時間おつきあいいただき、たいへんおつかれさまでした。
今回お話したleggiero(レッジェーロ)を、早い時期に習得しておく。そのことは、あなたのピアノ解釈の幅&奥行きを、格段に広げてくれると私は信じています。
もし将来、あなたが難易度の高い楽曲にチャレンジすることがあるとします。そこに、leggieroがでてきた。でも、そこであなたは、ドギマギする必要はない。必要とあらば、その音質(色)を瞬時にイメージすることができるからです。
たとえば、実際にAKI先生が演奏した経験でいえば、『ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番 第1楽章』です。
オーケストラの伴奏をバックに、ソロ・ピアノが速いアルペジオでかけあがっていく。そこでは、ピアノの音がオーケストラにかき消されてはいけない。音を粒立たちよく、そしてきわだたせるために、そのときこのleggiero奏法が大活躍するのです。
そう、あなたがアラベスクでleggieroを習得する。それは、あなたがベートーヴェンの協奏曲に一歩近づいた。それを、意味するのです。
ここまで真剣についてきてくださったあなたには、きっと、ベートーベンの奥深いピアノ世界につながる資質と資格があると、私はおもいます。
それでは、次回(第2回)をお楽しみに。
きょうも、ピアノを楽しみましょう!
おっと、ごめんなさい、いい忘れてしまいました!
今回のleggieroについて、補足があります。
さっそく練習してみたい、そんな方のために、以下に補講『leggiero(レッジェーロ)の練習方法』をご紹介しておきます。
いてもたってもいられない方は、さっそくトライ!しましょう。
leggiero(レッジェーロ)の「音質」は動画でご理解頂けたかと思いますので、補講では、その「音質」を出すための「練習方法」について触れたいと思います。
先ず、楽曲アラベスクの最初の部分を思い返してみましょう!
【画像3】
Grand Staff(大譜表)の中間にあるleggiero(レッジェーロ)の表記は、「右手」への指示です。
前述の動画でも説明している通り、leggiero(レッジェーロ)を弾いている時の「感じ」は、その通りに意識して弾いて下さいね。(念のため以下に再記します。)
※leggieroは、それまでstaccato、legatoが指の関節を使って弾いていたのに対して、手首を使って弾きます。先ず、手首を鍵盤から(離して)宙に浮かせた感じをイメージして、先ほどのように「ちょうつがい」のイメージで、手首から鍵盤を押す力が出ていると意識して下さい。そのまま手首を「平行」に移動させながら鍵盤を押していくのですが、手首が「宙に浮いている感じ」の為に鍵盤は最後(これ以上押せないという所)まで押されないとイメージして下さい。1つの鍵盤が半分まで押された所で次の鍵盤に移(押され)るというイメージです。
以下、その練習方法です。
大きく分けて、2つあります。
■A-Minor Scale(イ短調の音階)を利用して
■アラベスクの旋律パターンを利用して
■A-Minor Scale(イ短調の音階)を利用して
先ずA-Minor Scale(イ短調の音階)上で、右手のみでの2オクターヴの※leggiero(レッジェーロ)の練習例。
a.) Scale(音階)練習
ここをクリック!⇒ https://www.youtube.com/watch?v=HOYgsf3q3oE
b.) Scale練習 〈最初は意識しながらゆっくりと練習して下さいね!〉
ここをクリック!⇒ https://www.youtube.com/watch?v=FOajjiHm1yE
※ここで、改めて意識して注意して頂きたいのは、「鍵盤を押す力」は手首から出ていると感じることです。比較として分かりやすい例はStaccato(スタッカート)ですが、その場合、「力」は指の関節から出ているという「感じ」だということです。leggieroを弾いている時は「手首から鍵盤を押す力が出ている」と感じることで、あなたの鍵盤を押す時の「感じ方」が、staccatoを弾く時とは違う!とわかることが重要なんです。
動画では、AKI先生の手首の「高さ」がleggieroを弾く時とstaccatoを弾く時とでは明らかに違うことに注目。そして、その違う「音」をあなたの耳で「聴き分ける」ということが、さらに重要。(AKI先生の演奏をご参考に)
【参考動画】
※A-Minor Scale(イ短調の音階)上で、右手のみでの2オクターヴのstaccato(スタッカート)の練習例
ここをクリック!⇒ https://www.youtube.com/watch?v=pv3OWK1ydEE
■アラベスクの旋律パターンを利用して
アラベスクの冒頭の右手の旋律をよ~く見ると、4つの16分音符の旋律に続く8分音符は傍線(leggeiro)ではなくて、「点」つまり、staccato(スタッカート)となっています。
これを弾きこなすには、前述のleggiero(レッジェーロ)に、※staccato(スタッカート)のニュアンスをつけ加えて弾く必要があります。
※8分音符ではありますが、staccato(スタッカート)で弾くことで「音」の長さは16分音符のように響きます。そして、弾く時の「鍵盤を押す力は指の関節から出ている」という感じ。
I 先ずA-Minor Scale(イ短調の音階)で、右手のみでアラベスクの16分音符の※旋律パターンを借ります。そして、以下の(a)パターン、あるいは、(b)パターンから始めます。オクターヴ上のA音(ラの音)まで続けますが、こうしてleggiero(レッジェーロ)を広く鍵盤をつかって練習します。
※4つの16分音符のこと。耳で音質を入念にチェックしながら
練習して下さい。
(a) パターン: アラベスクの冒頭の旋律パターンを活用した練習 (leggiero)
ここをクリック!⇒ https://www.youtube.com/watch?v=g8kqloPmByI
(b)パターン: アラベスクの冒頭の旋律パターンを活用した練習 (leggiero)
ここをクリック!⇒ https://www.youtube.com/watch?v=41eyaNObb7k
II 次に、上記(a)パターン、(b)パターンとまったく同じ要領で、今度は、※staccato(スタッカート)を練習します。
※この練習はstaccato(スタッカート)の練習もかねますが、それ以上にleggiero(レッジェーロ)との「響き、感覚のの違い」を自覚することが目的です!
(a) パターン: アラベスクの冒頭の旋律パターンを活用した練習 (staccato)
ここをクリック!⇒ https://www.youtube.com/watch?v=7eVmhasPtOQ
(b)パターン: アラベスクの冒頭の旋律パターンを活用した練習 (staccato)
ここをクリック!⇒ https://www.youtube.com/watch?v=eTMse3exMIw
III 最後に16分音符の旋律パターンを、楽譜にあるようにleggiero(レッジェーロ)とstaccato(スタッカート)を組み合わせて、Ⅰ(a)パターン、あるいは、Ⅱ(b)パターンをつかって始めます。1オクターヴ上のA音(ラの音)まで続けて練習します。
※以下の旋律パターンで聴こえる最後の音(5番目の音)は、常にスタッカートで弾いてますよ!注意して聴いてください。
(a) パターン: アラベスクの冒頭の旋律パターンを活用した練習 (leggiero&staccato)
ここをクリック!⇒ https://www.youtube.com/watch?v=Q7H0swdg02A
(b)パターン: アラベスクの冒頭の旋律パターンを活用した練習 その2 (leggiero&staccato)
ここをクリック!⇒ https://www.youtube.com/watch?v=FTgsa-P0iPE
以上が、leggieroの練習方法です。
これで、あなたの右手は、leggiero(レッジェーロ)を弾く準備OKなはずでしょ?
右手のleggiero(レッジェーロ)が弾けたら、次に左手(marcatoマルカート)と一緒に練習します。
※もちろんその逆、つまり、左手のマルカートができてから右手の練習に移行してもまったくOK!
「ピアノはいつナンドキでも必ず『両手で』練習するべき!」
実は、こういった教え方をするピアノの先生方が、少なからずいらっしゃるのです。
しかし、私はこう考えます。
私たち人間の「学習」という過程を、情報処理の観点から読み解けば、「初期学習」は情報量が少ない程処理が素早く、効率的なのは、明白です。
ピアノ演奏で「一度に処理する情報量」を、その時々のあなたの熟練度に合わせて増やしたり減らしたりする。つまり、練習の段階でいかにそれをコントロールできるかが、実は「効率的な上達」へのキーなのです。
今回の特集記事執筆者
『ピアノ教室
21』 竹内 [東京都台東区]