知っていそうで意外と知らない、マル秘ピアノ・テク (全3回) 10年5月

知っていそうで意外と知らない、マル秘ピアノ・テク (全3回)
~これがAKI流!クラシックピアノへのアプローチだ!~

執筆者: 『ピアノ教室 21』主催 竹内 [東京都台東区]

第2回: ハーフペダルとふつうのペダルの違いってなに?
~動画で弾き分け方のコツをマスター~

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こんにちは。
ピアノ教室21』のAKI先生こと、竹内です。

今回は、ズバリ『ハーフペダル』です。


「ハーフペダル?そんなの聞いたことがない。」

そう首をひねった方も多かったのではないでしょうか。
あなたもひょっとして、ペダルってオンとオフしかなかないとおもっていませんでしたか?

『ハーフペダル』とは文字通り、「ペダルを半分のところ辺りまで踏んだペダリング」のことですが、初めて聞いた方も多いとおもいます。

ここでいうペダルとは、右側の『ダンパーペダル』をさします。
言葉で表現すれば、全開にペダルを踏んだ状態の「音」に比べ、この『ハーフペダル』は「ドライな感じ(響き)」がします。
この「ドライ」とは、ある程度の残響音は残しつつも、一つ一つの音がはっきり聞こえる状態の意味合いで使っています。

でもそれなら「いっそのこと、ペダルを使わなければドライじゃん!」なんて考えた方もいらっしゃるでしょう。

その通りなんですが、それではペダリングをしていることにはなりませんね。それに、響きがデッドな状態になってしまいます。

「(響きは)ドライ」なんだけどちゃんとペダル踏んでますっていうのが、ハーフペダル。
ハーフペダルの響きの本質とは、「ただドライ」なのではなくて、ある程度の(心地よい)残響がある「ドライ感」なのです。

音の骨格はしっかり聴こえる、つまり、ドライな音質なんだけど、同時にペダリングによってピアノ全体が共鳴してる響きも聴こえるような感じ。
わたしなりに言葉で「ハーフペダル」を表現すれば、そのようになります。

後ほど、それは実際どんな表現なのか、動画演奏でご紹介したいとおもいますが、それにしても、どうしてピアノはこんなことができるのでしょうか。
ここからピアノの構造の話になり、ちょっと退屈かもしれませんが、しばらくおつきあいください。
ピアノを弾く人にとっては基本的な構造のお話なので、確認の意味できいてくださいね。


繰り返しますが、ここでいう「ペダル」は、ピアノの一番右のペダルのことです。このペダルには名称がついており、「Damper Pedal(ダンパー・ペダル)」と呼ばれています。


Damp(ダンプ):もともとは「湿らせる・鈍らせる」などという意味。弦・太鼓の振動を止める、〈音を〉弱める、振幅・波動を減衰させるという意味で使われる。「Dampする装置」で「Damp-er(ダンパー)」


ピアノには(高音部を除いては)ダンパーと呼ばれる消音装置が備え付けられていて、弾いていない時は常時、その消音装置が弦を上から押さえつけている状態になっています。

※アップライト・ピアノの低音部を上から見た画像。弦に直接触れている白い装置が消音装置(ダンパー)。グランドピアノにも、同様の装置がある。


特定の鍵盤を押すと、叩いた弦からダンパーが浮く(離れる)仕組みになっているのです。

アップライト・ピアノの場合は横(正面)から手前/演奏者側へと浮き(離れ)ます。

鍵盤を押さえ続けている(弾いている)あいだ中、消音装置(ダンパー)は弦から離れています。そして、鍵盤から指を離すと同時に、今度は消音装置(ダンパー)が弦に触れ(戻る)ことにより、鳴っていた弦の振動を止め、音が消える仕組みになっているのです

ピアノの最高音部は、弦の鳴る時間が短いため、ダンパーが備えられていません。


では、ダンパーペダルとそのダンパーの関係はどうなっているのでしょう。

ダンパーペダルを踏むと、すべての消音装置(ダンパー)がいっせいに弦から浮いた(離れた)状態になり、その結果、打鍵した音がペダルを踏み続けている間は伸び続けます。
また同時にこの状態では、演奏した弦だけでなく他の弦も共鳴しています。

効果としては、ペダルを踏まずに打鍵した弦を弾きっぱなしで延ばした時よりも、音響が豊かに聴こえるのです。そして、踏んでいるダンパーペダルを放すと消音装置(ダンパー)が元の位置に戻り(弦を押さえている状態)、伸びていた音(倍音による他の弦の音響も含む)は止まります。

では「ハーフペダル」は、いったいどんな状態になっているのでしょうか。
それは、ダンパーがかすかに弦に触れている状態となっているのです。それによって、微妙な響きがつくられるわけなんです。

以上、ざっとお話しましたが、おわかりいただけたでしょうか。
ピアノのペダル構造のお話は、そのあたりにして。


お待たせしました。
では、Fur Elise (エリーゼのために)を題材に、ハーフペダリングとはいかなるものか、実際の動画演奏をみていきましょう。

第3番目のモチーフです。

画像01


57~76小節をHALF pedaling(ハーフペダル)で弾くとこうなります。↓


そして、これが同じ箇所をFULL pedaling(フルペダル)です。↓




いかがでしょうか?
響きの「違い」、聴きとっていただけたでしょうか。

ここでとりあげたフレーズに対して、こういったべダル・アプローチをとることは、ベートーベンが描いた全体の構成の中で、重要な役割を果たします。フレーズのニュアンスの違いは、楽曲に豊かなスケール感と色合いを与えるのです。

しかし、このことは覚えておいてください。

どこで「ハーフペダル」または「フルペダル」をつかうのか。
これについては、こうしなければならないといった決まりごとなどはない、ということ。

学術的に様々な見解があるとはおもいますが、これについて基本的には、あなたの感性、想像力にまかされているとわたしは考えます。

だから、あなたのインスピレーションを大切にしてほしいのです。
ただし、最初に申し上げたとおり、あくまでベートーベンが大切にした全体の構成感、スケール感、対比をしっかりと意識してください。くれぐれも、その中にあなたらしいフレーズ感が存在していることは忘れずに。

自由でインスピレーションを大切にというメッセージは、けっして恣意的に弾いてくださいという意味ではありませんよ。


その意味では、AKI先生の演奏も、あなたにとっては、あくまでひとつのヒントにすぎません。


今回のHALF pedaling(ハーフペダル)。
いかがだったでしょうか?

こんな奏法があることを知るだけでも、知らなかった方には参考になったのではないかとおもいます。

ぜひ、他の楽曲にもご活用いただければ幸いに思います。

ピアノは、あなたの思うままに、自分を信じて楽しみましょうね!

【Fur Elise(エリーゼのために)】
played w/HALF pedaling(ハーフペダルで演奏) by AKI先生


補講 『ハーフペダルの習得法について、さらに学びたい方は以下をどうぞ』

ハーフペダルとはダンパー・ペダルを半分程度のところまで踏んだ状態で「ドライな感じの響き」のことでしたね。
そのときの「消音装置(ダンパー)」の状態は、ダンパーが弦から離れきっておらず、弦に多少触れている状態になっています。

これは、先に構造のところでお話したことでした。

そう、弦に消音装置(ダンパー)が多少触れていることにより、「ドライな感じの響き」が、結果として得られるのです。

では、ハーフペダルの習得と練習方法について、その響きのニュアンスを判断基準にしながら、以下にご紹介しましょう。


まずは、あなたが弾いているピアノの「ハーフペダル」の響きを探しだします。
以下のAKI先生の模範演奏動画では、A minor Scale(イ短調の音階)を両手でUp&Downしながら思いのままペダルを踏んで、音響の変化を聴いています。


ペダルを下まで全部踏むと(フルペダル)、あたり一面にエコ~します。ちょうど、お風呂で大声で歌った時のような感じです。そしてペダルをちょっとだけ戻せば、すぐさま音響に微妙な変化が現れます。よ~く耳を澄まして音響を聴いてくださいね。


AKI先生は、ヤマハのアップライトU3でペダルの踏み具合を変えながらハーフペダルの音響を探しています。探し当てたところでAKI先生のペダルを踏んでいる足は止まっています。それがハーフペダルを踏んでいる時の音の響き具合です。そのまま音階演奏をしばらく続けていますのでよ~く響きを聴いて下さい。

さて、上記スケール練習でハーフペダルの響きの探し方とその響き具合を学んだところで次は、Chord(コード/和音)を弾いてのハーフペダルの響きの探し方とその響きを見てみましょう。

最初にペダルを最後までめいっぱい踏んでから(フルペダル)A minor chord(イ音の3和音)を弾き、そのまま踏んでいるペダルを少しづつ上方に戻しながら、ハーフペダルの音響を耳を澄まして探しています。めでたく探せたら、ペダルはそのままの状態に固定して同じA minor chordを立て続けに4回弾いています。弾き終わった後もハーフペダルの醸しだす音響(残響)を聴いています。


いかがでしょう。
ハーフペダルの「ドライ感」、ヤミツキになりそう?

まだ、続きますよ。

次は、ハーフペダルの音響(残響)を感じてみましょう。

ここでは、実際の音楽でよく遭遇するchord progression(コード・プログレッション/和音進行)を弾いています。
※ここでは、I(A minor)-IV(D minor)-V(E major)-I(A minor)を使っています。AKI先生はまず、ペダルを踏み切った状態のまま(フルペダル)で、和音進行を立て続けに弾いてます!次に、ペダルを上方に戻して(ハーフペダル)、同じ和音進行を立て続けに弾いています。フルペダルの時の和音の響きとハーフペダルの時の和音の響きの違いに注目ですよ。



いかがでしょう、違いがわかりましたか?


フルペダルでは、それぞれの和音がゴチャ混ぜになってしまって、お互いの響きを打ち消し合いながら、雑音にも似た音のカタマリとして響いています。

それに対して、ハーフペダルではそれぞれの和音がクリアーに分かれて聴こえていますよね?

最初の和音から最後の和音までの演奏で、各和音【特に注目して頂きたいのは、異和音どおし 例:I と IV、又はIV と V】がお互いの個性的な響きをを打ち消すことなく響いていること。言い換えれば、打鍵された一つの和音の残響が僅かに残る状態(ハーフペダルによってドライな感じにされた状態)で次の異和音が打鍵される結果、各和音が終始クリアーに響いている。これが、ハーフペダルの響きなのです!


それにしても、私達の耳はそれぞれ個性的であって、ハーフペダルといっても個人によってはその聴こえ方に多少のニュアンスの違い(バリエーション)が生じてきます。

そこで、問題となるのが「どれが正しいハーフペダルの響きなのか?」です。
結論から申し上げますと、ハーフペダルに「正しい響き」というものはありません。

あるのは、「ドライな感じ(響き)」のみです。

そして重要なのは、その響きをあなたの耳で感じることなのです。
つまり、ハーフペダルは個々人によってその響きのニュアンスが違っていて自然だということ。


そこを踏まえた上で、どれも同じハーフペダルなんだけど響きのニュアンス(ドライ感)が違ういくつかのハーフペダルを、AKI先生の模範演奏を通して聴いてみましょう!

A minor chordを4回弾いていますが、それぞれのペダルの踏み具合(ニュアンス)は微妙に変えています。注目して頂きたいのは、各回和音の残響はそれぞれ全てハーフペダルによるものです。最初の打鍵の後、手は鍵盤から離しています。


いかがでしょう。
それぞれ同じハーフペダルなのに、響きが違うでしょ?

そう、違っててまったくOK!

重要なのは、どの「響き」があなたにとってハーフペダルに聴こえるかです。

そして、どの響きがあなたの現在弾いている楽曲に適切と思えるのか、なのですから。

判断するのは、あなたなのです。


それでは、ハーフペダルについて、さらにもう1つまいりましょう。
それは、ピアノの高音部で弾く時と低音部で弾くときは、ハーフペダルの「響き(残響)が違う」ということです。これだけでは、何を言いたいのかちょっと分かりませんね・・・

つまり、ピアノの高音部でハーフペダルの響きが得られるペダルの踏み具合(深さ)のままで低音部を弾いた場合、低音部はハーフペダル以上の音響になってしまうのです。

その理由は、ピアノの低音部は高音部に比べて「太く長い弦」が使われており、ちょっとした反響にも非常にセンシティブ(敏感)だからなのです。


それでは、どうしたら高音部と低音部とで同じ感じのハーフペダルの響きを出せるのか?


勘の良い方は既にお気づきかもしれませんが、前述の「ニュアンスが違う4種類のハーフペダル」がヒントです。それらをヒントにして、響きが大きめの低音部ではペダルを多少「浅く(少なく)」踏めば、求めている「ドライな響き」が得られる、というわけなんです。

逆の視点から言いましょう。高音部は低音部にくらべて「短く細い弦」が使われていることから、残響が少いのです。ですから、高音部の場合、あえて深くペダルを踏み込むのです。それによって、他の弦、つまり高音弦を含む、中音弦・低音弦の共鳴(倍音)を活用できますから、高音部の貧弱な鳴りを助けてあげることになります。その結果、低音部と高音部の響きのバランスがとれるというわけです。


それでは最後に、高音部と低音部でのハーフペダルの響きとその(ドライな)響きを得るためのペダルのコントロールの仕方を、AKI先生の実演を参考にみてみましょう!

1回目のA minor scaleでは、高音部と低音部は同じハーフペダル(まったく同じペダルの踏み方)で弾いています。高音部はハーフペダルの響きが得られていますが、低音部が「響きすぎている」ことに注目。
2回目は、ハーフペダルで高音部を弾いた後、ペダルをわずかに戻し(浅く/少なめにし)、低音部でA minor scaleを弾いています。そのことで、低音部においても「ドライな感じ」のハーフペダルの響きが得られています。



今回の記事は、いかがだったでしょうか。
ハーフペダル、なかなか奥が深そうなかんじがしませんか?

ハーフペダルを手に入れたあなたのピアノ演奏。
その瞬間から、あなたのピアノの響きがガラッと変わり、より豊かな世界が目の前に立ち現れることでしょう。

ピアノは楽しみましょうね。


今回の特集記事執筆者 

ピアノ教室 21』 竹内 [東京都台東区]