デキる生徒さんにヒアリングした効果的なピアノ練習方法 :大人編

いつも忙しい中、練習時間のやりくりを上手につける一部の生徒と、そうでない多数の生徒がいます。いわゆる、一部のデキる生徒さんは、いったい何が違うのでしょうか?それについて、ピアノ講師さんが実際に生徒からヒアリングをしました。今回は、大人編です。



デキる生徒さんにヒアリングした効果的なピアノ練習方法 :大人編





今回のメルマガ執筆者 16年3月



エムジック音楽教室  宇野智子 [千葉県市川市]






ライフスタイルや個性、価値観別に大人の方のモデルケースをご紹介


 前編では、さまざまな環境でピアノに取り組むお子さんの効果的な時間管理術をご紹介しました。

<<< 前編のお子さん編 はこちらから>>>

後編では、大学生、社会人、主婦、定年された方の練習方法をご紹介します。

 大人になると、自分一人で予定を動かせないこともしばしばで、思ったようにピアノに向かう時間がとれない方が多いのではないでしょうか。ですが、好きなことに向かう時間というのは、単に習い事をするという以上に価値のあることだと私は思います。大人の習い事は、時に趣味を楽しむという範囲を超えて、人生の支えや励みにもなりうるのです。

それでは、大人の方のモデルケースを見ていきましょう。今回も個人情報保護のため、ヒアリングした内容を再構成し、仮名にてご紹介しています。



【不規則な日々の中で『必ず空いている時間』を狙い撃ち】 望月さんのケース


~大学生。サークルやアルバイト、講義の課題など、日々の予定が不規則。長期休暇も何かと忙しい。~

 音楽大学以外の大学生でも、ピアノを続ける生徒さんはいらっしゃいます。大学によっては、学生コーラスや軽音楽部、オーケストラサークルなど音楽系の集まりも充実しているので、そうした活動と併せて楽しむ方もいるようです。ですが、大学生の生活は本人が思っている以上に不規則。授業の課題や小テスト、アルバイトなど、意欲のある生徒さんほど、さまざまな予定に目まぐるしく翻弄される日々を過ごしています。

 そんな生活の中で望月さんが注目したのは、午前中のひと時でした。大学の授業やアルバイトに行く前の15分間をピアノに向かう時間と決め、毎日どのような練習をするか計画を立てて弾いているそうです。大学生になると、一曲で10分を超えるような大曲を練習することも珍しくありませんが、部分練習をする日、指使いの練習をメインに取り組む日、全体像をつかむためにざっと通して弾く日、といったように、焦らずコツコツと練習を積み上げることを心がけているとのことでした。

 継続的にピアノに触れていることで、「練習している自分」に自信や安心感をもつという効果もあると思います。また、不規則なスケジュールの中でそのようにある種のルーティンがあることは、日々の生活を送る上でもプラスになっていると思います。




【休日の『ガッツリ練習』に役立つ楽譜への書き込み】西川さんのケース

~社会人。シフト制で働いているため休日や出勤日にばらつきがある。レッスン日程も変則で、レッスンは事前予約制で受講している。~

 次にご紹介するケースは、望月さんとは正反対の練習をしている方です。西川さんの仕事はシフト制で、実質、休日と休前日しか自由な時間がとれない生活スタイルです。西川さんは、いつも休日をフル活用して譜読みと練習に取り組むそうです。発表会の前などは、ほぼ一日ピアノに向かっていた休日もあったとか‥‥‥。ピアノが好きだからそれでもリフレッシュになる、と常々おっしゃっています。

 ただ、こうしたスケジュールで少し困るのが、次にピアノに向かう時までにレッスンでのアドバイスを忘れてしまうことだそうです。レッスン直後には覚えたつもりになっていることも、三日弾けないと忘れている‥‥‥それは、子どもの生徒さんでも同じなのですが、やはり多忙な大人ほど、忘却曲線の降下具合が激しくなるのが現実です。

 そこで西川さんが取り入れたのは「アドバイスを自分で楽譜に書き込むこと」でした。レッスン中は、講師が楽譜に注意書きや指使いを書き込むことがありますが、西川さんは私が言うことや書き込みたいことを、自分の手で書き込んでいます。私の言葉を一度咀嚼し、自分の言葉で書くことで、曲への理解が深まるそうです。「どれだけピアノを弾くまでに日にちが空いても、自分で書いたことはちゃんと思い出せるんですよね」とおっしゃいます。この方法は、ピアノを弾く時間がとれない方に是非おすすめしたいと思います。




【『子どものお手本』としての自分をイメージ】 脇田さんのケース

~主婦。子どもが学校に行っている午前中に練習したいが、日々の用事に追われてできないこともしばしば。~

 主婦のスケジュールは第三者に合わせることで回っていきます。朝は会社に行くご主人や学校に行く子どもたちのお世話、昼はパートや買い物の他に、自治会や家の細々とした用事などをこなし、そうこうしているうちに子どもたちが帰宅、おやつを食べさせて習い事へ連れて行き、お迎えに行き、夕ご飯の支度をして洗濯物を畳んでいるとご主人が帰宅‥‥‥と自分の都合では余暇や自由時間を作れない日が多いかと思います。さらに、休日も家事は待ってくれないので、実質365日気を抜けない、という声も聞きます。

 そんな中でレッスンに取り組む脇田さんの強みは、なんといっても「子どものお手本という意識」だと思います。基本的にはマイペースにのんびりピアノに親しんでいる脇田さんですが、時間がないことや忙しいことを言い訳にすることは滅多にありません。また、ご家庭では脇田さんがピアノに向かっている時は、不用意に邪魔をしないようにと、お子さんと約束をしているそうです。その約束があることで、「お母さんがピアノをしている間に宿題を終わらせるから、そうしたらゲームをしてもいい?」など、お子さんも時間の管理が一人でできるようになっていったとのこと。頑張っているお母さんの姿をみて、率先してお手伝いをすることもあるとおっしゃっています。脇田さんの習い事は、ご自身のためだけではなく、お子さんの自立心を芽生えさせるのに一役かったようです。

 ピアノの練習に対して言い訳をしないその背中をみて育てば、粘り強くひとつのことに取り組む素敵なお子さんに成長していくんだろうな、と思います。お子さんのお手本になろうと思えば、言い訳をしたり怠けたり、ということはなかなかできませんね。大人になってからのレッスンは、このように逃げ道を作らないストイックさも、少しは必要なのかもしれません。




【『上達は二の次』という発想の転換】井浦さんのケース

~勤めた会社を定年退職。趣味を作るためにピアノのレッスンをスタート。~

 井浦さんは毎日1時間、運動のつもりでピアノに向かうのが日課だそうです。何時から何時まで、というのはあまり決まっていないようですが、体調やその日の用事と相談しながら、ピアノに向かうとのこと。たまにご旅行や同窓会などでピアノを弾く時間がとれないと「三日もピアノに触れないままレッスンの日になっちゃったわ‥‥‥」と少しがっかりしていらっしゃいます。

 それだけ熱心にピアノに向き合っているので、さぞ上達も早かろう、と思うかもしれませんが、残念ながらそうとはいえません。井浦さんのレッスンは「繰り返し」のレッスンです。以前やったことを忘れる、気に入っているからという理由ですでに仕上がっている曲を何度も弾く、など同じことを何度も繰り返しています。ですがそれは、年齢のせいというだけではないと思われます。井浦さんにとって、ピアノは「トレーニング」であり「ボケ防止」なのだそうです。何が何でも上達しようという意識ではないため、レッスンで申し上げたアドバイスをよく聞いていないこともあります。なので同じことを繰り返すレッスンになってしまうのです。


 これは一見すると、無駄なことのように思えます。ですが何より大事なのは、井浦さん本人がそうしたレッスンを楽しんでいるということではないでしょうか。事実、「何度も同じことを繰り返して、先生はさぞイライラしてるんでしょうねぇ、ごめんなさいね」と言いながら、井浦さんは熱心にピアノを弾き続けています。生徒さんの充足感という面において、これはとても重要なことです。井浦さんにとっては、レッスンのために毎日1時間ピアノに向かう、その練習も含めて習い事という「活動」なのでしょう。講師である私も、忘れ物をしたり、レッスンを突如キャンセルして振替を要求したり、という生徒さんではないので、繰り返しのレッスンにいらだつことはあまりありません。





【レッスン受講をお考えの方のためにお伝えしたいこと】 まとめ

 ここまでお読みいただいた方は、大人編でご紹介した生徒さんが必ずしも一般的に「デキる」生徒さんではないと、お気づきになったかもしれません。ですが、私は「デキる」という言葉や概念を、ピアノ演奏に優れた生徒さんのみに限定しては用いません。

 音楽に関わらず、芸事は一生勉強です。ですが、芸事だけに人生を費やせる人は、才能と幸運に恵まれ、なおかつ必死に努力を重ね続けることができる、ほんの一握りの人だけです。しかしながら、当然音楽を楽しむ権利は万人にあります。普通に音楽に親しむ人は、どのように「習い事としてのピアノ」に取り組めば幸福になれるのか。私は大学院生の頃から漠然と考えてきました。明確な答えが出るほど経験を積んだとはとても申し上げられませんが、今現在思うことは「嫌いな気持ちを育てない」を第一条件に掲げて、講師はレッスンに取り組むべきではないかということです。

 一流の音楽家が奏でるどんなに素晴らしい音楽も、「嫌い」といわれたら立つ瀬はありません。感情的に叱責して音楽嫌いを育成してしまうほど、音楽を冒涜する所業はないと思っています。また、叱責するのと同じように、サービス業と割り切って無条件で生徒さんを甘やかし、音楽を薄っぺらく扱うことも許されるべきではないと考えます。

 十人十色の生徒さんと一人一人向き合い、自分のもっている、音楽とコミュニケーション両方のスキルを活かしてレッスンを進めていく‥‥そのレッスンが成功したならば、生徒さんはどのようなレベルの演奏であれ、それぞれに「デキる」生徒さんである、と私は考えています。
ご覧いただいた皆様も、生徒さんたちの時間管理術をヒントに、ご自分やお子さんにできる最大限の楽しみ方でピアノに取り組んでいただけたら幸いです。


エムジック音楽教室  宇野智子 [千葉県市川市]



 







【教室紹介】


エムジック音楽教室  [千葉県市川市]] のご案内

 初めまして、宇野智子と申します。

 日本大学芸術学部音楽学科に入学し、学生時代は写真学科や映画学科など、クリエイティブな友人と切磋琢磨して勉強いたしました。大学院は博士課程を道半ばで中退。当時はすったもんだがありましたが、挫折の分だけ、音楽の美しさや奥深さ、学ぶことの素晴らしさを改めて知ることができたように思います。

 ピアノを教えるだけでなく、ライターとしても活動、『それぞれに合わせた適切な言葉で適切な指導を』が最近掲げている目標です。

 オンラインレッスンのほか、音大受験に関してのご相談、レポートや小論文の指導も受けつけております。


エムジック音楽教室 宇野智子










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